渡辺範彦「ギター・リサイタル・ライヴ」
九月に入っても相変わらず程々に忙しい。気力・体力の限りを尽くし…なんてことは全然ないが、加齢により許容閾値が下がっているのだろう、少々お疲れ状態。さて今夜もテンション維持のために変わらぬルーチンで、久しぶりにこの盤を取り出した。

以前にも取り上げた渡辺範彦(1947-2004)の1968年4月東京文化会館でのライブを収録した盤。1981年に日本コロンビアからリリースされたもの。収録曲は以下の通り。
1.魔笛の主題による変奏曲(ソル)
2.リュート組曲第2番より;プレリュードとフーガ(バッハ)
3.アストゥーリアス(アルベニス)
4.組曲イ短調(ポンセ)
5.マドローニョス(トローバ)
6.クリオロ風ワルツ(ラウロ)
渡辺範彦といえばぼくら世代のギター愛好家には説明不要のビッグネームだ。同い年の荘村清志(1947-)、芳志戸幹雄(1947-1996)と並ぶ存在だったが、実力は完全に抜きん出ていた。しかしその名前の大きさと実績に比べ、彼はおよそスター性や華やかなステージだけの存在からは最も遠いところにいた孤高のギタリストといってよい。この盤はそんな彼が翌年1969年にパリ国際コンクールで日本人として初めて優勝する前年の貴重な記録。そして完璧主義と言われた彼が弾き込んだお馴染みの曲が並ぶ。
針を落とす前までかつての記憶を頼りにもっと重厚な音を予想していたが、冒頭の<魔笛>から透明感あふれる音が、愛器;河野賢作のギターから軽やかにはじけるように響く。この当時に比べ現代ではソルにも様々なアプローチがあるが、60年代の後半の演奏としては異例なほど軽やかな演奏といえる。続くバッハのBWV997はニ短調にアレンジした版を使っているようで全体に響きが高音域に寄っていて、現代の耳には少々奇異に響く。この曲のプレリュードで渡辺はちょっとしたミスをしているが、それがこの盤で唯一のミスだ。この時代のギター演奏としては格別に技巧的完成度が高い。アルベニスもポンセもいたって誠実な演奏で、その音色と合せて楷書の趣きといってよい。中でも組曲イ短調のサラバンドで素晴らしく豊かな歌を聴かせてくれる。トローバのマドローニョスでは切れのいいタッチを駆使して、躍動感あふれる音楽を奏でている。
80年代初頭までテレビやステージで活動を重ねていた渡辺範彦であったが、次第にファンの目に触れる機会が少なくなり、また体調を崩したとも伝えられ、やがて2004年春、突然の訃報に触れることになる。享年56歳。多くのギターファンに惜しまれた晩年であり、急逝であった。その後かつてのいくつかの演奏が発掘あるいは復刻されCD化されたが、この盤はまだ復刻再発されていないようだ。その後、ご家族や門下生らによって彼の生涯を振り返るサイトが開設され、多くの思い出が語られている。
彼の死後、ゆかりの地パリをご家族が訪れたことで発掘されたパリコンクールでの演奏音源。
1987年の演奏
1976年の演奏
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