田部井辰雄(G)
先回の記事に書いた渡辺範彦。聴き終えた盤を棚に戻そうとして、こんな盤を見つけて取り出した。

田部井辰雄(1945-)のギター。アルバムタイトル「プレリュード」と題された一枚。1979年11月に立川社会教育会館(当時)での録音。彼の初めてのレコードにあたる。はっきりした記憶がないが、確か近所のリサイクルショップのジャンクコーナーで見つけて手に入れたはずだ(ジャケットに記された名前は彼のサインだろうか)。収録曲は以下の通り。バロック期の作品として、当時ギター演奏でよく取り上げられた曲が並んでいる。
バッハ/前奏曲ニ長調 BWV846、前奏曲ニ短調 BWV999、
サラバンド ロ短調 BWV1002、前奏曲・フーガ・アレグロ BWV998
スカルラッティ/ソナタ イ長調 L.483
ロンカルリ/パッサカリア、ガヴォット、ジーグ
ヘンデル/メヌエット、サラバンド
田部井辰雄氏は1945年生まれというから、先回の記事に書いた渡辺範彦や同い年の荘村清志、芳志戸幹雄と近い世代だ。70年代半頃から雑誌でもよく名前を見かけた。取り分け、日本人ギタリストとしてバッハを正面から取り組んでいる奏者として認知されていたように記憶している。当時、彼の演奏に接したわけではないが、雑誌でみる髭を蓄えたその風貌から、ストイックで求心的な演奏姿勢をイメージしたものだ。
1979年、田部井氏34歳のときのこのデヴュー盤を聴くと、当時の氏に抱いていたイメージが蘇ってくる。どの曲も、およそ遊びのないきっちりとした造形。テンポ設定や音色の選択も奇をてらうような手法はいっさいない。さらに愛器ハウザー1世から繰り出される音は録音条件も相まって、やや硬質に響き、ここでも甘さとは無縁。そうした幾つかの要素から成り立ったこの盤の演奏は、昨今聴かれる耳当たりの良さや雰囲気重視の演奏の対極にあるように感じる。「時代」といってしまえば、そうかもしれないが、今となっては貴重な演奏記録だ。
十数年前に開設された田部井氏のYouTubeチャンネルには、2000年初頭に録られた演奏動画が相当数アップされている。愛器ハウザー1世や西野ギターを駆使し、今は中々見られない60~70年代の主流だった右手のタッチの妙を楽しめる。中には「音がきれいではない」といったコメントがあったが、コンサートプロとしてステージでよく通る音を追求してきた結果の音だとぼくは感じるが、どうだろう。
バッハBWV1006aのプレリュード。2010年の演奏。
西野春平氏と話をしたとき、田部井さんの西野ギターは何かスペシャルモデルなのですか?と聞いたことがあった。答えは…「いや、松・ローズの普通の40号ですよ」とのこと。
アルベニス「セヴィーリャ」@2007年
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