ブロムシュテット&N響のシューベルト



きのう10月21日は都内での仕事を5時に終えたあとNHKホールへ。予定していたブロムシュテット指揮のN響定期に足を運んだ。


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コロナ禍になる数年前から、すでに90歳を目前にしていたブロムシュテットとN響の演奏をFM放送で何度か聴き、来年こそはと思いながら何年かが過ぎてしまった。今回ようやく満願成就。チケットも早々に予約してこの日を楽しみにしていた。

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NHK交響楽団第1966回定期公演
シューベルト/交響曲 第1番ニ長調 D.82
シューベルト/交響曲 第6番ハ長調 D.589
指揮:ヘルベルト・ブロムシュテット
管弦楽:NHK交響楽団
2022年10月21日(金)19:30~ NHKホール
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久しぶりの渋谷そしてNHKホール。再開発で渋谷駅はすっかり様変わり。右も左も分からない別世界になってしまった。何とかスクランブル交差点に出て神南方面に向かって歩き始めると、ようやく土地勘が蘇ってきた。そしてNHKホールはかつてのまま。すでに半世紀の歴史を刻み、田舎者のぼくにとってもいくつかの思い出が残る。

18時30分開場。開演の19時半まで1時間あるが、18時45分からミニコンサートがあるとのことで、ロビーで時間をつぶすことなく着席。ほどなくステージにカルテットの面々が登場し、シューベルトの弦楽四重奏曲第6番ニ長調から第3楽章と第4楽章が演奏された。聴く側にとって本番前のウォーミングアップとして粋な計らいだ。

今回のブロムシュテット指揮の公演、プログラムはマーラーの9番とシューベルトの1番・6番、それとソリストを迎えたシベリウス/ピアノ協奏曲・ニールセン/交響曲第3番の三つが用意されている。眼目はマーラーとシューベルト。どちらに行くか、両方行くか、大いに悩んだが、公私予定もあってこの日のシューベルトプロのチケットを取った。ぼくにとってのブロムシュテットはやはり彼が50代だった頃のベートーヴェンやシューベルト、ブルックナーのイメージが強い。かつてシュターツカペレ・ドレスデンと録音したそれらの音盤はいずれも彼の壮年期の記録として輝く。そんなこともシューベルトプロを選んだ理由の一つだ。95歳の誕生日を前にした今年6月。転倒して怪我を負ったとの情報があって心配したが、いくつかの予定キャンセルはあったものの無事復帰。予定通りの来日となった。

定刻を少し回って団員入場。そしてコンサートマスターに腕を引かれながらブロムシュテットもステージに進んできた。客電が落ちチューニングが始まる。客席は9分の入り。ざわめきが静寂に変わり、ホールの空気が張りつめる。95歳のマエストロ。昨年までは自らの歩みで指揮台に上がり、そのまま立って指揮を取ったが、今年は椅子に腰をおろした。6月の転倒が無かったならとも思うが、年齢を思えば無理からぬことだろう。

プログラムの最初は交響曲第1番ニ長調。オケは中編成の対向配置10型(10-10-6-4-3)。ブロムシュテットがあまり思い入れの間を取らずにサッと腕を下した。冒頭のトゥッティが明るく立ち上がる。椅子に腰かけた後ろ姿ながら、ブロムシュテットが上半身と両手を使ってフレーズの表情を丁寧に示している様子がよく分かる。スコアのページも丁寧にめくっている。速からず遅からずのいいテンポだ。曲想からして深刻ぶるところはなく、過度な緊張を持ち込むこともない。終始明るく軽快だ。印象的だったのは第2楽章。ロマンティックな表情をやや強調してたっぷりとした歌を聴かせてくれた。
第1番の演奏が終わると休憩なしで第6番ハ長調へ。オケの規模を12型(12-10-8-6-4)に拡大。やはり明るい表情の曲ながら響き全体の重心が下がり、ぐっとシンフォニックになる。ブロムシュテットは、各パートへの出入り指示、フレーズの表情など、少ない動きながら十分な指揮ぶりで、95歳にして頭の中から身体の隅々まで音楽が鳴り切っていることがよく分かる。この曲ではN響の木管群の冴えた音で彩りを添えてくれた。


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(最近は終演後のカーテンコールの際、スマートフォンでの撮影が許可されている)


やはりシューベルトプロにしてよかった。シューベルト初期の作品ながら、十分にシンフォニック。もちろん曲想は明るく穏やか、かつ軽快。95歳という年齢ばかり気にしながら妙に深刻に思い入れて聴くこともなかった。ブロムシュテットが手馴れた曲をいつもの調子で笑顔でサッとやって…そんな軽みのある演奏だった。

演奏を終えるとブロムシュテットは、N響のメンバーをパートごとに立たせて自ら拍手を送り、そして最後に指揮台から降り、客席を向いて万雷の拍手に応えた。「95歳、95歳って言わないでよ。いつもと同じだから…」そんなつぶやきが聞こえて来そうだ。団員の手を借りながら何度かカーテンコールを受ける姿を目に焼き付け、かつてテレビで観た80年代壮年期の指揮ぶりをそれに重ねて、半世紀近い来し方を思いつつNHKホールをあとにした。深まる秋、青春の息吹も明るいシューベルト、95歳にして変わることないマエストロ、不思議な三位一体を感じながらも幸せなひとときだった。


ブロムシュテット&シュターツカペレ・ドレスデンによるシューベルト交響曲第1番全4楽章


同 第6番全4楽章



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プロフィール

マエストロ・与太

Author:マエストロ・与太
ピークを過ぎた中年サラリーマン。真空管アンプで聴く針音混じりの古いアナログ盤、丁寧に淹れた深煎り珈琲、そして自然の恵みの木を材料に、匠の手で作られたギターの暖かい音。以上『お疲れ様三点セット』で仕事の疲れを癒す今日この頃です。

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