フリッチャイ&BPO ベートーヴェン交響曲第9番ニ短調
仕事に追われながらも、師走感ゼロのきょうこの頃。気分だけでも少しは年末を感じようと、今夜はこの盤を取り出した。

フェレンツ・フリッチャイ指揮ベルリンフィルハーモニーによるベートーヴェンの第9交響曲ニ短調。1957~58年録音。手持ちの盤は20年前近く前に輸入盤のワゴンセールで手に入れた。70年代LP廉価盤時代から繰り返しリリースされているお馴染みの録音だ。フリッチャイ(1914-1963)とベルリンフィルとのベートーヴェンは3番・5番・7番・9番がステレオ録音されている。もしかしたら全曲録音を前提にセッションが進んでいたのかもしれない。残念なことにフリッチャイが病魔に冒され、それはかなわなかったが、ベートーヴェンの代表作が良好な音質で残っただけでよしとしよう。ちょうどこの頃はベルリンフィルのシェフにカラヤンが決まって間もない時期。以降カラヤンとベルリンフィルによる膨大な録音セッションが始まることになる。
フリッチャイとベルリンフィルの一連のベートーヴェン録音からは、ベルリンフィルがまだカラヤンに飼いならされる前の、戦前からのフルトヴェングラー時代を通してつちかわれたドイツ的なベルリンフィルの音が聴ける。この録音から数年後の60年代初頭、カラヤンとベルリンフィルによる最初のベートーヴェン全集が録音されるのだが、それと聴き比べると実に興味深い。録音年月はカラヤン盤が数年あとだが、録音場所は共にベルリン・イエスキリスト教会、プロデューサーもオットー・ゲルデスで同じだ。録音技師(トーンマイスター)だけがフリッチャイ盤ではヴェルナー・ヴォルフ、カラヤン盤はギュンター・ヘルマンスと異なる。しかし、その演奏・音響は随分と違っていて、このフリッチャイ盤の方が明らかに音が硬質で引き締まっている。録音も優秀。解像度が高く各パートがよく分離して、それぞれ何をやっているかがよくわかる。
第1楽章はフリッチャイ盤では極めて整ったアンサンブルと筋肉質の音色で、聴いていると正にこちらの身も引き締まる感がある。一方カラヤン盤は、音響がやや肥大していてグラマラスだ。音楽の運びも前のめりで、いささか落ち着きがない。それをもって「現代風な…」ということになるのだろうが、どう聴いてもフリッチャイ盤に軍配が上がる。
フリッチャイは終止落ち着いた曲の運びで、これでオケが貧弱だと単に迫力のない地味なだけの演奏になるところだが、そこはベルリンフィルだ。控えめな表現で落ち着いたテンポながら緊張感に満ちた音楽を展開する。第3楽章のアダージョ・モルト・エ・カンタービレは、このコンビの特質がよく出ている。各パートの音の分離が明確で、変奏曲ごとに繰り出される各パートの組ひものような絡み合いが実によく表現されている。木管や金管の音も落ち着いていて、ややほのぐらい弦楽器群の音色と共に、この第3楽章の美しさを引き立てている。第4楽章でバリトンパートを歌うのはディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウ。意外なことにフィッシャー=ディースカウが第9を歌っているのは、このフリッチャイ・ベルリンフィル盤が唯一ということだ。フリッチャイはこの第4楽章に限って、やや速めのテンポを取っている。コアなクラシックファンの中には、第9はこの第4楽章で価値を下げているという人もいるのだが、こうして速めのテンポと取ることで、例えばテノールがマーチ風の伴奏にのって歌ったあとの管弦楽の掛け合い部分などは素晴らしく緊張感あふれる展開となっている。そして最後の最後、コーダでの一気呵成のアチェルランドで曲を閉じている。フリッチャイは本当に素晴らしい指揮者だった。一連のベートーヴェン以外にも新世界やチャイコフスキーの悲愴など名演を残した。
この盤の音源。全4楽章。
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