チェリビダッケ&SWRのブラームス
先回に続き王道名曲。取り出したのはこの盤だ。

セルジュ・チェリビダッケ(1912-1996)とシュトゥットガルト放送交響楽団(SWR)によるブラームス第2番。独グラモフォン盤全集中の一枚で、第2番は1975年の録音。
当時チェリビダッケはSWRのシェフを務めていた。またそのライヴ録音がNHKFMで流れるようになって、日本でも幻の指揮者として話題になり始めていた時期でもある。ぼくも学生時代の当時、FMから流れる彼の指揮するブラームスやシューベルトにかつてない興奮を覚えた記憶がある。この盤の録音は当時の放送録音用のもので、学生時代に聴いた演奏と同一かあるいは極めて近いものだろう。
月並みな表現だが演奏は素晴らしいのひと言だ。弦楽群が奏でるフレーズは精緻を極め、まるで一本の絹糸が紡ぎ出されるかのようだ。音程、音色、ボウイングの細部までチェリビダッケの指示が行き届いているに違いない。木管群のフレーズも明瞭に浮かび上がり、ブラームスの分厚く響くスコアが透けて見えてくる。その意味では室内楽的なアンサンブルといっていい。一方でマスの響きにも不足はなく、それも混濁することなく響く。チェリビダッケが来日して初めて日本のオケ(確か読響)を振った際、通常の倍の練習量を要求したり、その結果の演奏があまりに弱音で神経質だったことが、一部でネガティブに報じられた。おそらく当時の日本のオケには大規模管弦楽を室内楽的に入念に組立てるという概念が乏しかったことと、響きの少ないホール音響によるものだろう。後年サントリーホールでのミュンヘンフィルとの来日公演でその評価は一変することになる。
第1楽章ではSWRの弦楽群が素晴らしく美しい。同時にこの曲らしい明るく前へ進む推進力にも不足はない。フレージングも常に明確だ。またヘミオラ音形では通常耳にする演奏よりもはっきりとそれを明示するようにフレーズを切っていて新鮮に響く。第2楽章でもよく訓練された弦楽群が息の長いフレーズを美しく歌う。この曲が書かれたときブラームスが滞在していた夏の南墺ペルチャッハの湖畔に響き渡るように、ホルンも深々としたアインザッツで聴かせてくれる。第3楽章は軽く聴き流しがちの楽章だが、何度か現れるテンポの速い中間部がスケール大きく奏され、演奏次第でこうも変わるものかと実感する。終楽章も高揚感と全体の精緻なコントロールが一体となって抜群の推進力だ。
チェリビダッケの演奏は巨大なスケールの晩年の演奏も唯一無二だが、70年代のこの盤の頃を最善とする向きも多い。このブラームスも中庸のテンポ設定と完全にコントロールされた管弦楽バランス、それでいて息苦しさを感じさせない開放的な高揚感を併せもつ。ライヴゆえのキズもゼロではないが、それを補って余りある名演だ。
この盤の第2楽章。冒頭から約1分以上に渡りチェロが長いフレーズを歌う。4分20秒過ぎから次第に熱を帯び、5分19秒にはUm!とオケに気合いが入れるチェリビダッケの声が…。終盤8分40秒からはテンポをグッと落として最後の坂を登る。
この盤の音源。全楽章。
徳岡氏によるチェリビダッケ・トーク
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