E・ボールトのブラームス
先日来のブラームス祭りの続き。きょうはこの盤を取り出した。

英国の指揮者エイドリアン・ボールト(1889-1983)とロンドン・フィルハーモニー管弦楽団(第3番のみロンドン交響楽団)によるブラームス交響曲全集から第1番ハ短調を聴いている。1889年生まれのエイドリアン・ボールトがこの盤を録音したのは80歳を超えた70年代初頭。ホルストの「惑星」を初演したことで知られるボールトだが、同国のビーチャムやバルビローリなどに比べると少々地味な存在だったのか、壮年期の録音は少ない。このブラームスをはじめ、多くの盤が晩年の録音だ。他の英国系指揮者同様、エルガー、ホルスト、ヴォーン・ウィリアムズといった自国作品を得意としたのはもちろんだが、ボールトは修行時代にライプツィッヒに渡り、ニキシュに私淑したということからも伺える通り、ブラームスやベートーヴェンなどのドイツ物にもよい演奏を残した。このブラームス全集もその一つだろう。 この盤を手に入れたのは二十年程前。メージャーレーベルから版権を譲り受けて廉価ボックスセットを出すことで有名な蘭DISKY社からリリースされたもの。昔から評価の高い演奏であることは知っていたが、実のところあまり期待もせずに手に入れた。しかしこれが存外によかった。
80歳を超えた晩年の録音であることから、おそらく徹底的にオケを絞り上げて練習を重ねた録音ということなく、半ばスタジオライヴ的に録ったのではないかと思う。それゆえかオケのアンサンブルは鉄壁というわけにはいかず、弦楽群のアインザッツにはいくらか乱れもあるし、前進する推力も圧倒的というものではない。しかし、対向配置を取るオケ全体の響きは十分厚く重量感に不足はない。テンポは意外にもほとんどインテンポで進む。また音色も派手さのないもので、共にブラームスに相応しい。特筆すべきはこの曲で重要な任を負うホルンセクションの素晴らしさだ。第1楽章では単純な音形のひと吹きにも深さを感じるし、展開部で聴かれるベートーヴェンの「運命」のモチーフに似たタタタ・ターンのフレーズもよく突き抜けてくる。第2楽章終盤、例のヴァイオリンソロとの掛け合いでも美しい音を聴かせてくれる。もちろん第4楽章でのホルンの活躍を言うに及ばない。思えば英国にはホルンの名手が多い。デニス・ブレイン、アラン・シヴィル、バリー・タックウェル等。その伝統がこのときのロンドン・フィルにも息づいているのだろう。
世には様々なブラームス演奏があるが、このボールト&ロンドン・フィル盤は一見すべてが中庸のようでありながら、スケール感、要所要所での力感、ブラームスらしい憧れを引きずるような歌、それらを過不足なくなくコントロールして具現化する手腕など、文句の言いようのない出来栄えだ。
この盤の音源。第1番ハ短調。第1楽章の提示部を繰り返している。
この盤の音源。第1番から4番まで全4曲が続く。概要欄にある楽章ごとのタイムスタンプを参照されたい。
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