ベートーヴェン ピアノソナタ第18番変ホ長調「狩」
数日前に梅雨入りした関東地方。きょう日曜日も時折り雨降り。この時期らしい空模様の一日だった。昼過ぎには部屋の片付けをしながらのナガラ聴き。この盤を取り出した。

クララ・ハスキル(1895-1960)によるベートーヴェン。ハスキル晩年1959~60年録音。手持ちの盤はまだフィリップスレーベルが健在だった2005年に廉価盤で出たときのもの。協奏曲第3番ハ短調(マルケヴィッチ指揮ラムルー管弦楽団)とピアノソナタ第17番ニ短調「テンペスト」、第18番変ホ長調「狩」が収録されている。今夜はこのうち第18番を選んでプレイボタンを押した。
モーツァルト弾きとして名高いハスキルだが、もちろんベートーヴェンはピアノ弾きとして重要な作曲家だったに違いない。とはいえ、むやみにレパートリーを広げる演奏家ではなかったとようで、ベートーヴェンではこの盤に収録された3曲にしぼって取り分けよく演奏したそうだ。
ベートーヴェンのソナタ18番はそう多く取り上げられる曲ではないかもしれないが、よりポピュラーな第17番「テンペスト」と好対照を成している佳曲。全楽章を通じて、ベートーヴェンとしてはやや珍しく、チャーミングで軽みのある曲想だ。第1楽章は付点音符によるリズミックなモチーフが印象的な明るい楽章。2楽章に4分の2拍子のスケルツォをおき、第3楽章に優美なメヌエットが配されている。このメヌエットは美しい。終楽章は8分の6拍子。タランテラ風の急速調で、ベートーヴェンらしい熱を帯びたフィナーレとなる。
ハスキルはいずれの楽章も力で押すことなく、美しい音色と穏やかなフレージングが生きた演奏だ。全楽章を通じて、ハスキルが力を込めたフォルテシモで鍵盤をたたく箇所はそう多くない。メッゾフォルテ以下の弱音のコントロールが素晴らしいのだ。人間もそうだが、大事なことは大声で叫ばず小声で伝えるものだということが、ハスキルの演奏からはよく分かる。あのチャップリンをして「私の生涯に出会った天才はチャーチル、アインシュタイン、そしてハスキルだけだ」と言わしめた天賦の才に恵まれながら、若くして病魔に冒され、ナチスに追われたハスキルの過酷な人生を思うと、晩年のこれらの演奏を裏付けるものが分かるような気がする。
この盤の音源。第1楽章 手持ちの盤からアップ。
この盤の音源。 第3楽章 優美なメヌエット
18番の楽譜付き音源。ケンプの演奏だそうです。
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