ヤマハのギター



先日、某楽器店でヤマハのギターを試奏する機会があった。
ヤマハが本格的なクラシックギターを作り始めたのは60年代後半。他の楽器同様、様々なラインナップを持ち、お手軽な量産ギターから本格的なハンドメイドまで広く手がけていた。70年代にはスペインの製作家を社内に招いたり、反対に社員をスペインに長期派遣するなど、本腰を入れていた時期もあった。また豊富な材料ストックや様々な研究開発・量産への投資などは、個人製作家やガレージメーカーの及ぶところではなかった。しかし、ヤマハのクラシックギターに対するプロや上級アマチュア連中の評価はいま一つで、同社系列音楽教室の生徒用という域を出ない感があった。


GC-82.jpg


ぼく自身もこれまでヤマハのギターは何度か弾いたこともあったが、あまり感心したことがなかった。唯一、好感をもって欲しいなあと思ったのは、エルナンデス・イ・アグアドのギターに範を取った80年代初頭に出ていたGC-30Bというモデル。これはその後もモデル名を変えて(生産終了となった数年前にはGC-61)、ヤマハのギターの中ではもっとも評判のいいモデルの一つだった。やや大型のボディーながら比較的軽く作られ、反応のいい高音とふっくらとした低音を併せ持っていた。そのモデルは開発を担当した同社の江崎秀行氏の名を冠して、江崎モデルと通称されたが、江崎氏が定年退職したあと、そのモデルは生産終了となってカタログから消え、ヤマハのHPにあった70年代の江崎氏のスペイン派遣やそれにまつわる開発秘話も消えることになった。企業としては仕方ない処置だろう。江崎氏はその後浜松に工房を構えてギター製作を始め、現在に至っている。

今回試奏したのは、そうした<江崎氏以降>のリニューアルしたヤマハのラインナップの中で実質的なトップモデルとなるGC-82。GC-82は希望小売価格115万円(ケース付)と、国産手工ギターの特注品を除く一般カタログ品のトップレベル相場にほぼ並ぶ。GC-82の上にはGC-70/71というモデルもあるが、これは以前からの継続モデルで受注生産となっている。材料は表板がスプルースまたは杉、横裏にはマダガスカルローズが使われている。糸巻きはゴトーの35G510QCで操作感はきわめて良好。塗装は全面セラックで塗られている。

抱えたときの第一印象は、大きさ重量もごく標準的で身体にスッと馴染む感じで悪くない。仕上げや造形の美しさ、使用材料の良さは、さすがヤマハだ。さて肝心の音は…。以前のヤマハギターに感じていた「どこか反応が鈍く、音のノビ、余韻に乏しく、弾きながら少々力づくになってしまう感じ」が影をひそめ、反応よく軽く弾いてもよく音が出る印象。今回のフルモデルチャンジに際して、様々な改良が加えられたことを実感するものだった。HPによれば、GC-82Sはサントス・エルナンデスやハウザー1世、82Cがマヌエル・ラミレスの音をイメージしていると記されている。しかし反応がいいといっても、例えばぼくが使っている楽器のうち、同じようにハウザー1世などのやや古めの楽器を志向している田邊雅啓氏ゲルハルト・オルディゲスのギターほどの反応の良さ、どっしりとした低音ながら全体としては軽みのある響きには至っていない。
量産という制約から<丈夫かつ均一>に作る必要性があるためだろう、そうした20世紀初頭の名器ほど<軽くかつ柔らかく>作れないのだろう。そうした<がっしり>感が音にも反映されている。その辺りは、例えば同じように<丈夫かつ均一>に作られている河野桜井ギターにも通じるし、個人の製作家において、製作本数が年間5本の人と20本の人との違いにも共通する。少々ラフに扱っても丈夫で狂わず、現代的なパワープレイにも対応する良質な楽器、という観点からは、ヤマハの新モデルも悪くない選択だと感じた。


GC-82でバリオス<フリア・フロリダ>を弾くベルタ・ロハス。



3分間でみるヤマハGCギターの製作工程。



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Author:マエストロ・与太
ピークを過ぎた中年サラリーマン。真空管アンプで聴く針音混じりの古いアナログ盤、丁寧に淹れた深煎り珈琲、そして自然の恵みの木を材料に、匠の手で作られたギターの暖かい音。以上『お疲れ様三点セット』で仕事の疲れを癒す今日この頃です。

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