ベーム&VPO <運命>



このところの北高型気圧配置の影響で、関東以北では気温の低い日が続いている。気付けば八月も終わり。朝晩の虫の音も一層にぎやかに聞こえてくる。まだまだ暑さがぶり返す日はあるだろうが、気分はもう秋だ。そんなことを思いつつ今週も週末金曜日。帰宅後、ひと息ついてネットを覗いていたら、きょう8月28日はカール・ベーム(1894-1981)の誕生日と出ていた。そうかと、しばし懐かしいベームを顔を思い浮かべ、こんな盤を取り出した。


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ベーム&ウィーンフィルによるベートーヴェンの第五交響曲ハ短調<運命>。1970年から72年にかけてセッション録音されたベートーヴェン交響曲全集の中の一枚。手持ちの盤はカートンボックス入りLP全集盤。90年代になってから中古で手に入れた。

1975年のウィーンフィルとの来日で最高潮に達した70年代のベーム人気。それを体験している世代もそろそろ還暦以上になるだろうか。40年前の出来事ながら、当時の録音も映像もよい品質で残っているためか、そう昔のこととは思えない。例えば1980年代に40年前の戦前戦中を回顧するのとは印象が異なるだろう。晩年、特に日本において異常とも思えるほどの人気を博したベームだが、その録音は賛否両論があった。いわく、ライヴはいいがセッション録音はまったく別人のようで覇気がない、という意見も多かった。このウィーンフィルとのベートーヴェン全集もそういう評価を下されることがある盤だ。

確かに、いまこうして第五交響曲を聴いていても、手に汗握る切迫感や、周囲を圧するように奔放な迫力は感じない。聴こえてくるのは、整然とした響き、堅実なテンポ、安定した音響バランス、そういったいわば<楷書>の趣きだ。同時に、ドイツの保守本流でありながら、ウィーンフィルの明るい音色によって、決して地味な印象にはなっていない。ベームは晩年まで耳の良さはまったく衰えなかったそうだが、おそら練習では、あの怖そうな表情で各パートの出音に一音一音注文を付けていたことだろう。その結果がノリとパッションだけで押し通すような演奏の対極に位置する響きを作り出した。歳を取ったから…というわけではないが、こういう楷書のどこが悪いのかと、そう思ってしまう。

カラヤン&BPOと同じく、録音はギュンター・ヘルマンスが担当しているが、音の印象はかなり違う。録音場所の違い、オケの違いはもちろん大きいと思うが、それ以上に、各声部の響きを明確にし、音楽の骨格を第一に組み立てるベームの解釈によるところが最大の要因だろう。音楽の横への流れを重視するカラヤンとは対照的だ。全楽章を聴き終えたあとの、どっしりとした充実感はベームならでは。同時期のブラームスの全集と併せて、長く聴き継がれるべき名演だと思う。


大成功したウィーンフィルとの1975年来日を受け、1977年に同団と再来日した際の演奏。
<運命>の第3楽章終わりから第4楽章。



この盤の全曲。




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Author:マエストロ・与太
ピークを過ぎた中年サラリーマン。真空管アンプで聴く針音混じりの古いアナログ盤、丁寧に淹れた深煎り珈琲、そして自然の恵みの木を材料に、匠の手で作られたギターの暖かい音。以上『お疲れ様三点セット』で仕事の疲れを癒す今日この頃です。

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