スジガネ入りのリスナーが選ぶ <クラシック名盤この1枚>



先日の記事に書いた、石原俊著『音楽がもっと楽しくなるオーディオ粋道入門』同様、この十年間、折に触れ見返している本がある。『スジガネ入りのリスナーが選ぶ<クラシック名盤この1枚>』(光文社・知恵の森文庫2003年刊)


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あまたある名曲案内のたぐいの中にあって、この本は中々ユニークな一冊だ。多くの案内本は、音楽評論家やその道のコアな達人の手になるもので、その書き手の意向と嗜好で曲が選ばれ、その曲を収録したディスクのお薦めの1枚が紹介される。オーディオ評論やレヴュー同様、時としてそれらの記述は、音楽レーベル会社の提灯記事になることもある。あるいはプロモーターが売り出し中のアーティストの盤が優先的に◎評価されることもあるだろう。これはクラシックばかりではなくすべての音楽ジャンルに共通した傾向だ。その点、この本は決定的に異なる。

音盤を推薦する記事を書いているのは、プロの演奏家、制作者、評論家ばかりでなく、ジャーナリスト、アマチュア音楽家、大手メーカー役員、教員、銀行マン、普通の会社とバラエティーに富む。共通しているのは只一点、音楽が好きで好きで仕方がない連中ということだ。記述内容も、その音盤との出会いを思い出話のように懐かしく語るものあり、その盤の演奏のどこが素晴らしいかを分析的に語るものあり、あるいはその盤の演奏によっていかに慰められ勇気付けられたかを語るものありと様々だ。そのいずれもが誰から頼まれたものでもなく、提灯を持たされたわけでもなく、兎にも角にもその盤が自分にとっていかにかけがいのない1枚かと熱っぽく綴っている。

従って、当然ながらその内容は時にマニアックで、ごく有り体の案内本を期待する向きには、濃すぎる内容もあるだろう。それでもこの文庫は、先んじて単行本で出たものを大幅に書き改めて、というと聞こえはいいが、実態としてはマニア度を薄めて(手心を加えて)出来たとのこと。長年に渡る愛好の結果のマニアであるから、執筆者の年齢は総じて高く、紹介されている音盤には現在では入手困難な古い盤も少なくない。それをもって、案内本の資格無しというなかれ。人を感動させる演奏は、日進月歩ばかりではないことの証明でもある。ぼく自身、この本で知り、出会った何枚かの盤があって、そのいずれをも、この十年間実によく聴いたものだ。発売直後の2003年に手に入れ、数多くの出張を共にしたため、背表紙もはずれかかっているが、同じページを何度読んでも、その時々で興味深く、今もときどき見返している。


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同じ本を買いました。

「知恵の森文庫」でしたね。ブックカバー・プレゼントに見事につられて、購入しましたよ。興味深く読んだのですが、
>執筆者の年齢は総じて高く、
それを強く感じました。私よりもだいぶ上の世代が中心かなと思います。LPの出現とステレオ録音に強いインパクトを受けた世代が中心のようでした。たしか、推薦されている録音の年代や、執筆者の世代を拾って、統計をとったように記憶しています(^o^)/
しかし、私も当時から物好きでしたね~(^o^)/

Re: 同じ本を買いました。

narkejpさんも、本書をお持ちなのですね。ご同慶の至りです(^^;
70年代は戦前からの名手がまだまだ健在だった時代、しかも最もレコードがたくさん売れた時代だそうです。その時期に多感な時期を過ごした世代が、結果的にマニアの中心層になったのでしょうね。私なんて、マニアのマの字もないと自分で思っているのですが、傍目にはどうでしょう…(^^;
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マエストロ・与太

Author:マエストロ・与太
ピークを過ぎた中年サラリーマン。真空管アンプで聴く針音混じりの古いアナログ盤、丁寧に淹れた深煎り珈琲、そして自然の恵みの木を材料に、匠の手で作られたギターの暖かい音。以上『お疲れ様三点セット』で仕事の疲れを癒す今日この頃です。

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