ワレフスカ(Vc)&福原彰美(Pf)



連休中はメイストームで強風もあったが、気温高く、初夏到来を思わせる日が続いた。きょうは休み明け。といってもきょう一日であすはまた普通の週末で二日間の休みとなる。この休み中は宅録含め、いつになくギターに触れる時間が長かったが、今夜は何日かぶりにアンプの灯を入れ、こんな盤を取り出した。


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2010年6月、36年ぶりに来日、三年後の2013年にも来日して大きな話題となったチェロのクリスティーヌ・ワレフスカ(1948-)。その2010年のライヴを録音したアルバム。上野学園石橋メモリアルホールでの収録。
実はこのCDに収録された2010年6月5日の演奏会はNHKFMで中継され、ぼくはたまたま会社帰りの車中でそれを聴いていた。クリスティーヌ・ワレフスカについて簡単な紹介があったあと、バッハのアリオーソが始まった。そのときのことはよく覚えている。車中で聴くFM放送。決して上等とはいえない車のオーディオセットから流れる音楽ではあったが、バッハでの呼吸の深さ、構えの大きさが実に印象的だった。このCDを聴くたびに、そのときの記憶が蘇ってくる。大きなフレージング、伸びやかな音。素晴らしいチェロの響きだ。

バッハのあと、ブラームスのソナタ1番が続く。出だしの低弦から繰り出される深く重い主題、そしてそれに続く高音域での応答。ブラームスらしい重厚さと若い時期の作品ゆえの燃え立つような曲想が交錯する。ワレフスカのチェロはまったく過不足なく曲を進める。取り分け低音弦での深いボーイングが印象的だ。この日の演奏会後半には、師でもあるボロニーニの「チェロの祈り」、ピアソラの「アディオス・ノニーノ」といった、現在彼女がホームとして活躍しているアルゼンチンの作曲家の作品が続く。いずれもチェロの雄弁な音色にラテンの秘めた熱情を込めた素晴らしい演奏だ。そして最後はショパンの「序奏と華麗なるポロネーズ」「チェロソナタ」で締めくくられる。ワレフスカが世に出て、デュプレのライバルと言われたのも半世紀前のこと。現代的視点からすれば、より技巧に優れ、正確な演奏をする奏者はいくらでもいるだろう。しかし、彼女のもつ太く豊かな音と、構えの大きな歌い口は、今では中々耳に出来ないように思う。

この盤のジャケット写真、それもワレフスカの左手に注目してほしい。弦を押さえる指がまっすぐに伸びている。この指使いは、カザルスやロストロポーヴィッチらが登場する以前のスタイルだそうだ。ワレフスカ自身、そうした20世紀初頭から現代に続くスタイルを「テクニックと引き換えに多くの芸術的な利点を見捨ててしまったメソッド」と言って否定しているという。もちろん左手だけでなく、より音に直結する右手も、彼女のスタイルには現代の多くのチェリストが忘れてしまった独自のボウイングの秘密があるに違いない。素人のぼくでもそういう話に納得するほど、ワレフスカの音には深く強く訴えるものがある。

そしてワレフスカに加え、この盤で伴奏をつとめる福原彰美のピアノがまた素晴らしい。長らくアルゼンチン国内での活動に限られていたワレフスカが再び世界各地で演奏するようになった近年、そのパートナーに選ばれたのが福原彰美だ。このCDでもピアニスト福原彰美の非凡さが伝わってくる。バッハのアリオーソのようなアダージョのテンポとワレフスカの大きなフレージングにも、ピタリと縦の線を合わせている。ブラームスやショパンのソナタでもときに雄弁にピアノを歌わせる。15歳で単身渡米したキャリアはあまり知られることはないようだが、ワレフスカがパートナーに選んだことを考えても若手逸材の一人だ。その福原彰美が近々リサイタルを開くからぜひ聴いてみてはと、先日知人の紹介があった。渡米から15年を経て、あらためて日本へ逆デヴューの格好だが、時間を作って聴きにいってみたい。

福原彰美:リサイタルのチラシ
福原昭彰美リサイタル_201605


2010年来日時の演奏。バッハの<アリオーソ>


同。ピアソラ<アディオスノニーノ>


ワレフスカ若き日の記録。https://youtu.be/TQAek1JyGyo


今月末のリサイタルと前にインタヴューに応える福原彰美。


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一味違うチェロ

こんにちは。
CDになった回ではないですがライヴを聴く機会がありました。
ワレフスカのチェロは音が一味違います。
太くて重心が低くて深い響き、お寺の鐘のような音です。
どうすればあんな音が出るんだろう? と思っているうちにコンサートは終わりました。

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Re: 一味違うチェロ

こんばんは。コメントありがとうござます。
たしか、2013年春の来日のときでしたよね。私の書いた記事へのコメントで、都内でのコンサートの日に上京予定があるで、とおっしゃっていたかと思います。私も同じ日に都内にいたのですが、開演時間に間に合いそうになく断念しました。あれから三年経ちますが、ぜひまた来日されて、コントラバスかと思うような太く幅広い独自な音を聴かせてほしいと思います。
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マエストロ・与太

Author:マエストロ・与太
ピークを過ぎた中年サラリーマン。真空管アンプで聴く針音混じりの古いアナログ盤、丁寧に淹れた深煎り珈琲、そして自然の恵みの木を材料に、匠の手で作られたギターの暖かい音。以上『お疲れ様三点セット』で仕事の疲れを癒す今日この頃です。

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