マーラーを聴く、もとい、読む



久々に面白い音楽書を読んだ。


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ヴォルフガング シャウフラー 著、天崎 浩二訳<マーラーを語る:名指揮者29人へのインタビュー>。この春三月に音楽之友社から上梓された新刊。

40年以上に渡って音楽を聴いてきて、いわゆる音楽書のたぐいも相応の数が手元にある。少なくても、仕事に関わる本や、そのベースになった学生時代の専門分野の本よりも多いだろう。とはいっても、いわゆる音楽家のエピソード、私生活や生涯のあれこれといった話題にはとんと興味なく、またその結果、いわゆるトリビア的知識も無いに等しい。生意気なようだが、音楽は音楽に接していればよく、その背後にある事情やエピソードには無頓着だったのだ。しかし最近になって、そういう話題に接するのもいいかなあと思うに至った。そんな矢先に出会った本の一つが、この<マーラーを語る:名指揮者29人へのインタビュー>だ。この本では、現在のクラシック音楽界でもっとも人気のある作曲家の一人であるグスタフ・マーラーについて、今を代表する29人の指揮者が語っている。29名の顔ぶれは、古参組としてはハイティンク、アバド、マゼール、ブーレーズあたり、もっとも若手はドゥダメル。いずれもマーラーを意識的に取り上げている指揮者が登場する。

著者ヴォルフガング シャウフラーがそれぞれに指揮者に対して、同じ質問をし、それに指揮者が応えるというインタヴュー形式が展開する。「初めて聴いたマーラーは?」「マーラーは何を望んでいたのでしょうか?」「影響を受けたマーラー指揮者は?」といった具合だ。そうした質問に対する指揮者の回答が興味深いのはもちろんだが同時に、単純に同じ質問を繰り返すのではなく、指揮者からの回答に応じて、関連の問いかけや変化球を投じる質問する側の著者の当意即妙な対応がいい。その変化球に対応して、また指揮者側から新たな話が出てくる。インタヴュー形式の本としては理想的な展開。さらに特筆すべきは日本語訳の素晴らしさだ。
実は先日、翻訳者の天崎浩二氏と話をする機会があり、この本の事情について話を伺うことができた。天崎氏は長らく楽譜輸入や出版に関わり、また音楽書に関しても本著以外にブラームスに関するいくつかの著作がある。氏いわく「マーラーがどうのこうのいう以前に、とにかく面白い音楽書を提供したい、読者に翻訳書とは思えないと言わせてみたい。"再読必死。読了後、音楽が聴きたくなる本"でありたい」そう考えたそうだ。実際この本は、よくある翻訳書の違和感がまったくない。日本語としてこなれた、そしてときに洒脱な表現もあって、原著者の指揮者へのインタヴュー光景がリアルに目に浮かんでくる。

現代を代表するといってよい29名の指揮者に共通して語られる事象がある。ユダヤ人という民族性に関わること、それと関連して先の大戦とマーラー受容との関係、ワグナーやブルックナー、シェーンベルク、ベルク等、同時代、前後世代との関係、そして欧州では一部の曲に関してまだ初演すら行われなかった60年初頭からマーラーを積極的に取り上げたバーンスタインのこと、そうしたことへの認識が多くの指揮者から語られる。この本を読み、そうした多くの指揮者が必ず引き合いに出す事象を考えると、マーラーを聴くという行為は音楽、音響としてのエンターテイメントではあるが、やはり20世紀初頭の欧州世界の状況やその背景にある文化・歴史・民族という側面への理解があるとないでは、まるで認識が違ってくるという、当然といえば当然の帰結に至る。

もっとも、そういう小難しいことをいつも考えつつ音楽を聴くわけではないし、この本はそうした深い問題以前に、読み物として、興味深いエピソードやウィットに富み、まったく飽きさせない面白さに満ちている。原著のそうした面白さを120%生かした翻訳も相まって、久々に楽しく読んだ好著。訳者の狙い通り、読後にあらためてマーラーを聴きたくなった。


<クラシックニュース>の翻訳者:天崎浩二氏へのインタビュー。



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Author:マエストロ・与太
ピークを過ぎた中年サラリーマン。真空管アンプで聴く針音混じりの古いアナログ盤、丁寧に淹れた深煎り珈琲、そして自然の恵みの木を材料に、匠の手で作られたギターの暖かい音。以上『お疲れ様三点セット』で仕事の疲れを癒す今日この頃です。

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