初秋の昼下がりはクライスラー



九月の長雨と台風連続襲来。その余韻を残しつつ始まった十月だが、昨日の前線通過で一気に秋の気配に。急に気温が下がったせいか、寒暖計は20℃を指している割には肌寒く感じる。ともれ、ようやく秋でありますね。これといった用事もない昼下がり、秋に相応しい渋い曲でも思ったが、まだ陽も高く、激渋ブラームスの室内楽という気分までには至らず、しばし黙考。初秋の陽だまりでほっこり聴くにはクライスラーなどどうかと思い、こんな盤を取り出した。


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ローラ・ボベスコによるにクライスラー名曲集。1921年生まれ(諸説あり)のボベスコは2003年に亡くなるまで長いキャリアを持つ。きっとぼくの世代よりも上のオールドファンが沢山いることだろう。ブロンドで美貌のヴァイオリニストとしても知られ、還暦を過ぎた頃の来日時の写真を見てもそれとわかる。この晩は晩年日本で人気が再燃した頃、1984/85年の録音。ピアノ伴奏はフィリップスのプロデューサとしても高名だったウィルヘルム・ヘルベック。フィリップスレーベル消滅の現在は、デッカレーベルで入手可能。収録曲は以下の通り。フリッツ・クライスラー(1875-1962)の主要作品20曲が収められている。

 愛の喜び
 愛の悲しみ
 美しきロスマリン
 中国の太鼓
 ウィーン奇想曲
 ベートーヴェンの主題によるロンディーノ
 ボッケリーニのスタイルによるアレグレット
 クープランのスタイルによるルイ13世の歌のパヴァーヌ
 昔の歌
 ウィーン風小行進曲
 ロマンティックな子守歌
 シンコペーション
 レチタティーヴォとスケルツォ・カプリース
 おもちゃの兵隊の行進曲
 プニャーニのスタイルによるプレリュードとアレグロ
 コレルリの主題による変奏曲
 ルクレールのスタイルによるタンブーラン
 ジプシーの女
 オーカッサンとニコレット
 道化役者のセレナード

第1曲『愛の喜び』が始まってすぐ、その音色に耳を奪われる。特に中音域から低音にかけて豊かで、深く、そして濃い。時折り音程の甘さが気になるところがないではないが、それよりも音色の魅力が勝る。先日の記事に書いた五嶋みどりとは対極といってもよいほどだ。今どきは不適切表現と言われそうだが、二十歳の小娘と大人の女の懐深さの違いとでも言おうか。ぼくのお気に入りの<ウィーン小行進曲>も収録されていて、五嶋みどりと比べると面白い。ボベスコの演奏はテンポが二段階くらい遅く、一つ一つの音がたっぷりとしている。低弦のビブラートの揺れに、聴く側の心まで揺さぶられそうだ。がしかし、表現としては過度なところはなく、音楽の品格が高い。ゆったりしたテンポ、豊かな音でよく歌うが、妙なコブシや嫌味なテンポルバートはなくて音楽が自然に流れていき、どこまでもチャーミングだ。懐は深いが、厚化粧の大アネゴではない。

ぼくのレコード棚にある女性ヴァイオリン奏者の盤を思い起こしてみた。ローラ・ボベスコ、イダ・ヘンデル、ジネット・ヌヴー、ミシェル・オークレール、チョン・キョン・ファ、ナージャ・ソネンバーグ、ヴィクトリア・ムローヴァ、前橋汀子、潮田益子、五嶋みどり、諏訪内晶子、庄司紗矢香、神尾真由子…。それら美しきミューズ達の中にあって、このボベスコの小品集はひときわ色濃いロマンティシズムをたたえた名盤だ。


ブラームス(ソナタ第3番ニ短調の第3楽章終盤)を弾くボベスコ。60年代後半から70年代あたりの映像だろうか。


クライスラー作品から有名な5曲をピックアップした音源。
ウィーン奇想曲/愛の喜び/愛の悲しみ/ジプシー奇想曲/美しきロスマリン


クライスラー自身による演奏音源。あまり演奏されないが1:00:44から始まる<Stars in my Eyes>は30年代米国映画中の佳曲。



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Author:マエストロ・与太
ピークを過ぎた中年サラリーマン。真空管アンプで聴く針音混じりの古いアナログ盤、丁寧に淹れた深煎り珈琲、そして自然の恵みの木を材料に、匠の手で作られたギターの暖かい音。以上『お疲れ様三点セット』で仕事の疲れを癒す今日この頃です。

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