セルのブルックナー第8



当地関東では金曜日の春一番のあと、二日続きで北風MAXの週末。きょうも晴天ながら、窓越しに差し込む陽射しだけでは足らずに、終日エアコン暖房オンの日曜日となった。さて、あすからまた一週間。今夜は少し早く休もうかと思いつつもアンプの灯を入れ、こんな盤を取り出した。


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ジョージ・セルとクリーヴランド管弦楽団によるブルックナーの第8交響曲。1890年第2稿ノヴァーク版による演奏。手元には70年代に廉価盤シリーズで出ていた頃の2枚組LPと数年前セルの録音がまとまった復刻されたときに手に入れた第3番との2枚組CDとがある。ブルックナーに開眼したのは70年代半ば大学2年の頃。ブルックナーやマーラーの大曲がブームになり、学生の仲間内でもよく話題になった。中でもブルックナーの第8番は、その規模や、豪放さと敬虔な祈りとを併せ持つ曲想から人気があった。クナッパーツブッシュや朝比奈隆のブルックナー録音が人気を得出した時期でもある。
この第8番は1969年10月ジョージ・セル最晩年の録音の一つ。この録音の翌年、セルはクリーブランド管弦楽団と1970年、大阪万博に合わせて来日公演を行い、そのあと帰国して程なく帰らぬ人となった。

セルのブルックナーは当時決してメジャーな人気を得たとは言えなかったが、どうして、素晴らしい演奏だ。セルらしく全体は古典的によく整い、楷書の趣き。いつも通りアンサンブルの縦の線はきっちり合い、聴いていてラフなところがまったくない。それではいささか肩肘張っていて面白くないのではないかという向きもあるだろう。しかし、これだけの大曲を自発性という言葉のもと、奏者の勝手に任せていては断片的な印象は残るかもしれないが、曲を大きく俯瞰して聴かせることは難しい。徹頭徹尾神経の行き届いた演奏という意味では、解釈は異なるがチェリビダッケの演奏に通じるところがある。古典的によく整いと書いたが、そこは後期ロマン派の大曲だ。ブルックナーと聞いて期待する重量級の響き、金管群の迫力、第3楽章での弦の歌、いずれも過不足なく充実している。またセルの演奏というと古典的でスッキリとした造詣から、テンポも速めというイメージがあるが、実のところはロマン派以降の曲ではときにゆったりとしたテンポと取り、スケールの大きさとロマン派風の味わいをみせることがある。この曲でも第2、第3楽章は他の演奏に比べるとテンポは遅く、特に第3楽章は29分を要し、多くの他の盤と比べてももっとも遅い部類に入る。音響的にはスッキリと見通しのよさを保ちながら、大きなフレージングと時に弱音を生かした表現で、実にロマンティックな表情を聴かせてくれる。手元にはこの曲の盤が10種ほどあるが、ケンペ&チューリッヒトーンハレ盤、チェリビダッケ&ミュンヘンフィル盤と並んで残しておきたい名演の一つだ。


この盤の音源で終楽章。



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No title

 毎回興味深い演奏の紹介、ありがとうございます。
 ブリームの演奏はその昔、大好きでした。J,ウィリアムスとの二重奏でも、その振幅の大きな表現やテンポ感など、痺れました。ウィリアムスという素晴らしい相手がいたからこそ、ブリームの至芸がまた引き立ったようなものです。
 加藤さんでは、私は実演での彼女のバッハ・無伴奏ソナタ及びパルティータの演奏に感動して以来、ファンです。録音でも、同曲の演奏は本当に素晴らしい!
 セルのブルックナー8番。これも懐かしいLPです。実は私も、日本盤・廉価盤ですが、このLPを大切にしています。かつてはよく聴いていたものです。セルは、一部評論家には「アンサンブル重視だけ」などと批評を受けたりしますが、どうして人間味溢れる芸術表現は、流石のものがあります。ベートーヴェンなど。
 スタジオ録音だけでは、何事も推し量れないことはありますよね。
 今日も、興味深い記事、ありがとうございます。

Re: No title

バルビさん、こんばんは。
70年代が青春真っ只中の音楽体験をしてきた世代は、だいたい同じような盤に思い出がありますね。ジュリアン&ジョンしかり、各種廉価盤しかり…話はツーカーで通じるものです。(^^ 加藤知子のバッハ無伴奏も手元にありますが、知と情のバランスよく、技術的にもまったく危なげないもので素晴らしい演奏だと思います。そういえば十数年前に群響とのチャイコフスキーVn協を聴いたことがあります。

セルのブルックナー8番!

当方、ブルックナーに接したのは比較的遅く、CD時代になってからでした。ブルックナー8番は、CBS-SONYの正規盤を購入、メタルカセットテープにダビングして、カーステレオで通勤の車中に何度も聴きました。たしか、1980年代中頃だったと思います。今も、思い切り音楽に浸りたいような気分の時に、このCDを取り出します。中間の楽章、ほんとにそのとおりですね。
http://blog.goo.ne.jp/narkejp/e/ee4eb3a5031e105aa1248b495cf81626

Re: セルのブルックナー8番!

narkejpさん、こんばんは。
随分早い時期にCD化されていたのですね。メタルカセットにダビングしてというあたりが、今となっていは時代を感じさせます(^^; あらためて聴き直してみると、大音響でスケール感を狙った演奏ではないことがよくわかります。第3楽章は室内楽を聴いているかのようです。

ブルックナーの8番

クラシックを教えてくれた先輩は、ドイツオーストリー系が
好みだったようで、マーラー・ブルックナーは守備範囲でした。
マーラーは次は「私の時代が来る」とコメントしたそうですが、
ブルックナーはそういう発言はなかったようで、マーラーの次は
ショスタコーヴィチと言った方もいたようですが、マーラーの
次はまだ来てないようですね。
交響曲作家の作品を聴き込んでいくとかなり時間がとられます。
マーラー・ブルックナーなどは特にその感じが強く、1日1楽章
聴くのがやっとから始まって、いつしか全曲通して聴けるように
なっていったのを思い出します。
ブルックナーの8番は朝比奈さんのを聴いていたころが聴き始めで
それほど古くはありません。
8番は実演は2回ほどありますが、何も邪魔されずに聴きとおすなら
実演ですね。出来不出来を言わなければ。日常の中では、色々と
途中で邪魔が入る可能性もあるので、楽しみにするのは個人的には
実演の方だったりします。CD等は手軽でいいのですが、対峙して
聴くという事が現在ではできにくいので、せめてもの実演ということ
ですが、なかなかプログラムに上がってきません。スコアの版の問題も
ありますが、私の様な素人はその違いも判りませんので、出されたものを
味わう限りです。今年5月に神奈川フィルが8番を初めてステージに
上げますが、行こうかどうか地元民としては迷っています。
この作品は彼の交響曲作品の中では好きな方です。中々ステージには
掛けられませんが、これと、ホルストの「惑星」は実演が好み派です(笑)。

Re: ブルックナーの8番

学生時代は時間も意欲もあって、毎晩のようにブルックナーやらマーラーやら長い曲で平気で聴いていました。自作の貧弱なオーディオセットでしたが、思えばもっとも貪欲に聴いていた時期でした。最近は聴こう思って腰をあげ、音盤をプレイヤーにセットして、その段取りまでたどり着けないこともしばしば。でも、聴き始めると全楽章を通して聴いてしまいますね。ブルックナーもマーラーもライヴで聴くと、様々は発見があって飽きません。去年から今年にかけて、当地の群馬交響楽団の定期でブルックナーの8番とマーラーの5番を聴きました。神フィルの8番、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。
プロフィール

マエストロ・与太

Author:マエストロ・与太
ピークを過ぎた中年サラリーマン。真空管アンプで聴く針音混じりの古いアナログ盤、丁寧に淹れた深煎り珈琲、そして自然の恵みの木を材料に、匠の手で作られたギターの暖かい音。以上『お疲れ様三点セット』で仕事の疲れを癒す今日この頃です。

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