カール・リヒター@東京1979



数日前の日経新聞文化欄にオルガン製作の第一人者望月廣幸氏の記事が出ていた。氏は埼玉県の小さな教会に生まれ、武蔵野音大へ進んでオルガンを学んだ。1964年オルガン奏者としてドイツへ渡るが、やがて関心はオルガンの製作へ。帰国後は多くのオルガン製作に関わる。初仕事は1968年、日生劇場に設置した移動式オルガン。ミュンヘン・バッハ合唱団を率いて来日する予定のカール・リヒターが公演会場にオルガンがないと聞いて激怒したことから急遽製作することになったそうだ。 そんな記事を読んだこともあって、数日ぶりの音盤タイムにこんな盤を取り出した。


201711_Richter_Tokyo.jpg


カール・リヒターが弾くバッハのオルガン曲集。収録曲は以下の通り。

(1)幻想曲BWV572 (2)前奏曲とフーガBWV548
(3)コラール「おお愛する魂よ」BWV654 (4)前奏曲BWV544
(5)コラール「汝イエス、天より降りたもうや」BWV650 
(6)トッカータとフーガBWV540 (7)トッカータ、アダージョとフーガBWV564

カール・リヒター(1926-1981)はミュンヘン・バッハ管弦楽団の指揮者として50年代後半から膨大なバッハ録音を残した。しかしもともと彼は、バッハ自身も楽長を務めたライプツィッヒ聖トーマス教会のオルガニストとして音楽のキャリアをスタートしている。この録音は彼が晩年来日した際に、東京カテドラル聖マリア大聖堂でライヴ録音されたもの。バッハの曲が本来作曲されたシチュエーションに近い状態で再現された演奏とも言える。

散らかった机上の整理をしながらアンプが温まるの待つ。20分ほどしたところでCDをトレイにセット。ボリュームノブを時計の針で10時過ぎ頃まで回してプレイボタンを押した。最初のトラックの幻想曲ト長調BWV572が始まる。冒頭1分半ほど即興的な音形のパッセージがあり、一瞬の休符をおいたあと、ペダル音の重低音を伴ったオルガンの総奏がアヴァロン・エクリプスから流れ、部屋の空気を揺るがすように響き渡る。バッハのオルガン曲の醍醐味、オーディオ的快感、双方入り混じり、しばし響きに身を任せる。

ライナーノーツにも書かれていたのだが、この演奏は一般のコンサートホールでの演奏とは少々趣きを異にしている。教会で奏でられる音楽、残響豊かなドームに響く音響そのもののが持つ価値…そんな側面を強く感じる演奏だ。純音楽的にとらえれば、各声部の描き分け、曲想の移ろいといった部分に注力するだろう。しかしこの東京カテドラル聖マリア大聖堂でのライヴは、教会の日常的行為としてのオルガン演奏として、即興的かつ教会内に響き渡る音響芸術とでもいうべき雰囲気を重視しているように感じる。リヒターは幾多の名演をレコードに残し、単身来日してチェンバロとオルガンの演奏会を開いたこの1979の来日から2年たった1981年2月に逝去。まだ55歳の若さだった。


この盤の音源。BWV540のトッカータ


同BWV548のフーガ



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東京カテドラル聖マリア大聖堂

東京カテドラル聖マリア大聖堂ですか。一度あの会場にコンサート聴きに行った覚えはあるのですが、何を聴きに行ったかおもいだせない。しかしながら、教会の独特のホールトーンは印象に残っています。教会というとなにか包まれるような音響をイメージしていましたがその通りでした。コンクリート打ちっぱなしの建物、丹下健三氏の作品だそうですが、朝比奈氏のブルックナーとか、建物が割と話題になってましたね。私はヘルムート・ヴァルヒャからバッハのオルガンは入りました。昔の話ですね。ミッション系の大学が市内にあったので、そこの礼拝堂のオルガンコンサートに出かけたりもしました。organは生がいいですね。ホールトーンと相まって癒されます。

Re: 東京カテドラル聖マリア大聖堂

東京カテドラル聖マリア大聖堂…声に出してこの名前を唱えるだびに、なんと美しく格調高い名前なんだろうと思ってしまいます。mobuさんは実際に響きを経験しているのですね。素晴らしい! バッハのみならず、音楽がそれが生まれた場と同じ空間で再現するのがベストでしょうね。

思い出

こんにちは、わたくしこのコンサート、現場で聴きました。この年リヒターは東京でオルガン2夜(Aプロ、Bプロ)チェンバロ1夜のリサイタルをしましたが、これはオルガンBです。最初の日、オルガンAは来日直後で時差ボケでもあったのか非常に不調(客にヤジを飛ばされたことで語り草になっています)、次のチェンバロもミスが多すぎCD化されてはいますが「狂気のライヴ」などと呼ばれているものでしたが、最後のこのオルガンBは好調で、やっと本領発揮してくれた感じでした。それはこのCDからもお分かりでしょう。この日から3か月ほど後にパリのノトルダムで行われたリサイタルのライヴが昨年発売されましたが、この東京盤のほうが力強い演奏でいいと思います。当日はアンコール曲のBWV564が胸に染み入るようでとくに感動しました。なおオルガンAプロのほうも実は録音されていて、FMで放送されたことがあります。得意のBWV538、768はとても良かったので、そちらもCD化してもらいたいところです。いきなり長文で失礼致しました

Re: 思い出

ういぐるさん> 初めまして。コメントありがとうございます。
そうですか、それは素晴らしい!リヒターの好不調はともかく、貴重なライヴだったことに違いはないでしょう。
あらためて振り返ると、この来日は晩年とはいえ、まだ50代そこそこの頃。音楽家としては一般的にまだまだ現役バリバリの年齢であるはずです。しかし、すでに40代から体調を崩しがちだったことを考えると、思いの外、厳しい条件下での演奏だったのかもしれませんね。
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マエストロ・与太

Author:マエストロ・与太
ピークを過ぎた中年サラリーマン。真空管アンプで聴く針音混じりの古いアナログ盤、丁寧に淹れた深煎り珈琲、そして自然の恵みの木を材料に、匠の手で作られたギターの暖かい音。以上『お疲れ様三点セット』で仕事の疲れを癒す今日この頃です。

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