ホロヴィッツ・オン・TV
本日セブン・シリーズはお休み。代わってこんな盤を取り出した。

ウラディミール・ホロヴィッツ(1903-1989)が残した多くの録音中の一枚<ホロヴィッツ・オン・TV>。ちょうど半世紀前、1968年2月1日にカーネギーホールで招待客を前にした公開録音ライヴとして有名な盤だ。その名の通りTVで放映され、多くの人々がホロヴィッツの演奏姿、手先の動き、そうしたものを目の当たりにした。
1983年、まさかの来日公演が実現したものの、吉田秀和の有名な発言他、その演奏は賛否両論となり、そのリベンジからか1986年にも彼は来日した。ぼくは83年来日時の模様をテレビで観たくちだが、当時ピアノそのものやピアノ音楽に疎かった自分にも、その出来栄えはいささか難有りの記憶がある。1968年録音のこの盤ではそうした杞憂はなく、かつ選曲の良さから楽しめる1枚に仕上がっている。収録曲は以下の通り。
1. ショパン/バラード第1番 ト短調 作品23
2. ショパン/ノクターン第15番 ヘ短調 作品55-1
3. ショパン/ポロネーズ第5番 嬰ヘ短調 作品44
4. スカルラッティ/ソナタ ホ長調 L.23
5. スカルラッティ/ソナタ ト長調 L.335
6. シューマン/アラベスク 作品18
7. スクリャービン/エチュード 嬰ニ短調 作品8-12
8. シューマン/トロイメライ (「子供の情景」 作品15より)
9. ホロヴィッツ/「カルメン」 の主題による変奏曲
ショパンは静かな語り口で始まりながら、深い郷愁のこもったフレーズと、時折みせる静と動のギアチャンジが素晴らしい。スカルラッティも決して大きく構えず軽いタッチで弾いていて美しい。シューマンのアラベスクとトロイメライも憧憬に満ち楚々としたロマンティシズムにあふれる。ショパンの影響を受けて書かれたスクリャービンのエチュード嬰ニ短調では悲劇的な熱情を存分に引き出し、最後には彼自作のカルメンヴァリエーションで華麗な技巧を披露している。
小石忠雄氏のライナーノーツによれば、この公開録音にあたっては、ひと月前から2回の入念なリハーサルが行われ、当日招待された2700人の聴衆には、ノイズを出さないように特別に配慮されたプラスティック加工用紙のプログラムが配られ、そしてステージの床鳴り防止や機材類からの雑音発生を防ぐ万全の措置が取られたと記されている。 50歳代に十年以上の渡って演奏の第一線から姿を消したあと60歳を越してから再び返り咲き、以降70年代半ばまで多くの録音を残した。この盤はその時期の彼をとらえた貴重な記録。「ピアニストには3種類しかいない。ユダヤ人かホモか下手くそだ。」と言ったホロヴィッツ。発言の真意は知らないが、彼が下手くそでなかったことだけは明らかだ。
<追記>
83年に来日公演の際、NHKのインタヴューに答えた吉田秀和の発言により、当時のホロヴィッツの演奏が「ひびの入った骨董品」とされることが多い。しかし当時番組を見ていたぼくの記憶では「こういう演奏は、好きな人にとってはともかくいいんだろな。骨董品みたいに。でも骨董品にしても、ちょっとひび入ったなあ…」と言っていた記憶がある。ひびの入った骨董品としては同じかもしれないが、発言のニュアンスはだいぶ違うように思う。
この盤の音源となったTV映像。
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