原典版カルカッシギター教則本



注文していた「原典版カルカッシ完全ギター教則本作品59」が届いた。この三月に現代ギター誌の臨時増刊号として出たもの。監修:原善伸、翻訳:上谷直子。


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ぼくら世代はもちろんのこと、さらに上の世代あるいはぼくらより下の世代も含め、マッテオ・カルカッシ(1792-1853)の教則本でクラシックギターのいろはを習った輩は多いはずだ。昨今は新しいメソッドも使われているようだが、ピアノの世界でバイエルが根強いように、クラシックギターにおいては今でもカルカッシはもっとも広く使われている教則本の一つだろう。一方で、この教則本は古い、単調で退屈だとの声もよく聞く。「…が、果たして時代遅れで単調でつまらないものだろうか」と監修の原氏。

ぼくは高校時代に独習用の教材としてこの教則本に触れた。だがそれも遥か彼方の記憶になっていたが、近年になってあらためてこの教則本に触れて、その素晴らしさに感心した。収録されている練習曲や各調のスケール、カデンツなど、古典的な素養に必須と思われるコンテンツがしっかり含まれている。これを退屈でつまらないと感じるなら、クラシック音楽そのものが退屈でつまらないと言っているに等しいとさえ感じる。もちろん、初級から中級の入り口あたりをカバーする内容であることから、複雑な形式や、凝った和声も出てこない。すべては19世紀初頭の古典音楽のもっとも基礎的な内容が多い。しかし、それらはその時代以降の音楽に触れるにあたっての必須の前提事項とも言えるものだ。若い頃に単調でつまらないと感じたものが、この年齢になって味わい深く響きという加齢要素もあるかもしれないが、今あらためのこの教則本に触れると、まだ電灯もなく、わずかな燈火のもとで市井の子女がこの教則本を開き、今のギターに比べるとずっと小さく華奢な当時の楽器をつま弾いていた情景が目に浮かんでくる。

今回の原善伸監修の「原典版」は、日本にこの教則本が入ってきてから長いこと続いていた誤りや慣習的な編集を見直し、初版と目される1835年にパリで出版されたカルリ版(Paris Carlie Cie)をわかりやすく翻訳したものとのこと。校訂ノートもしっかりと付されていて、信頼に足る版になっている。数年前に故佐藤弘和校訂で出た作品60「25の練習曲」原典版と併せて紐解けば、カルカッシの意図と当時の古典ギター音楽の骨格がよく分かる。2冊セットでギター弾き必携の出版だ。


カルカッシ教則本とセットとなるべき「25の練習曲」から弾いて録音したもの。7曲が連続再生される。弾き損じ多々あるがご容赦のほど(^^;



同教則本の1836年刊マインツ・ショット版はこちら

作品60「25の練習曲」の同版はこちら

カルカッシの主要作品は以下(Boijeコレクションの該当ページ)



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Author:マエストロ・与太
ピークを過ぎた中年サラリーマン。真空管アンプで聴く針音混じりの古いアナログ盤、丁寧に淹れた深煎り珈琲、そして自然の恵みの木を材料に、匠の手で作られたギターの暖かい音。以上『お疲れ様三点セット』で仕事の疲れを癒す今日この頃です。

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