ポリーニのショパン:ピアノ協奏曲第1番
きのうの関東地方は真冬並みの寒さだった。4月に入ってから少々肌寒い日が続いている。これも季節の変わり目。四季もよし、四季の移ろいもよし…ということにしよう。 さて今宵の音盤タイム。この曲が春の宵に相応しいかどうか異論もあろうが、この時期に聴きたくなる曲の一つを思い出し、この盤を取り出した。

マウリツィオ・ポリーニ(1942-)の弾くショパンのピアノ協奏曲第1番ホ短調。パウル・クレツキ(1900-1973)指揮フィルハーモニア管との演奏。ポリーニが1960年のショパンコンクールにおいて弱冠18歳で優勝し、その直後にロンドンで録音されたもの。ポリーニの最初のセッション録音にして、ライヴ録音を除き、今もってこの曲の唯一の録音だ。手持ちの盤は80年代初頭にミドルプライスで再発されたときの盤。70年代中庸には例の緑色ジャケットの廉価盤セラフィムシリーズで出ていた。この再発盤の帯には最新カッティング盤と記されている。これも十数年前に出張先の大阪・梅田の中古レコード店で手に入れた。
よく知られているようにポリーニは華々しく優勝を飾りながら、この録音のあと十年近く第一線から姿を消して研鑽を積み、その後あらためて一連のショパン録音で世に出ることになる。その意味でコンクールでの優勝と18歳という人生の一瞬の輝きともいうべき時の貴重な録音だ。
クレツキ指揮フィルハーモニア管のやや抑え気味の落ち着いた表情と淡々とした運びの前奏が美しく響く。アナログ最終期の最新カッティングも奏功してか、まったくといってよいほどトレースノイズを感じない。<北の宿から>を思わせるホ短調の主題も楚々と奏され、そしてピアノが入ってくる。ポリーニのピアノは意外にもと言ったらいいだろうか、勢いのある若者というイメージとは少し違う、落ち着いた弾き振りで始まる。今どきのコンクール優勝者であれば、もっと派手な弾きぶりで攻撃的とさえ言えるほどに攻め立てるような演奏をしがちだろうが、この盤のポリーニにそういう気配はない。もちろん技術的には優秀で余裕は十二分にあるのだろうが、力でねじ伏せる感じがまったくなく、終始しなやかに瑞々しく歌う。展開部や終盤の一部でさすがの力を感じるが、それとても汗の匂いなどは皆無だ。70年代以降の完璧な技巧とメカニズムが先に聴こえてくる演奏とは随分印象が異なる。まさに詩情あふれる清廉な弾きぶり。ロンド楽章の第3楽章でも印象は変らない。
第2楽章はそうした資質が一層映える。ショパンがこの曲を書いたのは20歳のとき。そして第2楽章について彼自身は「アダージョはホ長調で、静かな憂いを帯びた気持ちから生まれた。これは春の美しい月夜といった、多くの心地よい思い出を呼び覚ます風景にふれた印象を書いたのだ」と書いているそうだ。そうしたショパン自身の当時の有り様と、この録音のポリーニの演奏とはまさに一致するように感じる。同時に桜咲く今の時期にも相応しいのかなあと思い、聴いているこちらも若き日に戻った気分になるのだ。
この盤の音源。全楽章。
この曲の室内楽版。編曲は複数あるようだが、以下の音源はコントラバス入り弦楽五重奏のバックによるもの。
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