ポンセ 前奏曲ホ長調



連休後半。ぐずついた連休前半から一転、好天が続いている。身辺諸事情あってステイホーム。きょうは久しぶりに楽器を取り出し、こんな曲をさらった。


201905_Ponce_Prelude_E.jpg


マヌエル・ポンセ( 1882-1948)作曲の前奏曲ホ長調。ポンセはギター弾きにはお馴染みの作曲だが、一般の音楽愛好家に知られている曲は「エストレリータ」くらいだろうか。ギター音楽の世界にあっては、近現代を代表する作曲家の一人として外せない存在だ。 この前奏曲の原曲は「ギターとハープシコードのための前奏曲」。セゴビアと出会ったことでギター曲の作曲に尽力したポンセだが、いくつかの曲であえて擬バロック風の作風を採用。さらに自分の名を伏し、バッハと同時代のドイツのリュート奏者ヴァイスの曲として発表した。この前奏曲ホ長調もその路線に沿って書かれたものだが、手稿譜は紛失。後年1936年にハープシコードとギターのデュオ曲としてアレンジされ、セゴビアの結婚祝いとして贈られて出版もされた。ギター独奏曲としてはその後も正式な出版譜がないまま、セゴビアの録音からの採譜やハープシコードとのデュオ譜からの引用で、いくつかの版が出回ることになった。手元にも複数の楽譜があるが、写真のものは70年代に出回っていた好楽社のもので、作曲者ヴァイス・玖島隆明編と記されている。

この曲は規模としては小品ながらギターの特性にあった佳曲で、昔から中級者以上のギター愛好家に人気が高い。しかし、実際にこの曲を楽譜だけを頼りに再現しようとすると、意外に手強いのではないだろうか。まず拍子が8分の6なのか4分の3なのかに始まり(元曲ともいうべきハープシコードとのデュオ版は4分の3で記譜されているとのこと)、フレージングの区切りが小節をまたぐようなギミックもある。左手の押弦も特に後半になるとハイポジションや指の拡張が要求される部分があって手こずる。スラーが入る箇所も楽譜によりまちまちだ。そんな事情もあって、多くのギター弾きは(プロもアマも)、この曲の創始者ともいうべきセゴビアの録音あたりを参照に曲を組み立てることが多いようだ。

ぼくもこの曲には、ギターを手にしてまもない高校時代に出会い、すぐに惚れ込んだものだ。ホ長調という調性はギターでもっともよく響く調性の一つで、冒頭から気分よく弾き出すのだが、じわじわと弾きにくい箇所が出てきて、気付けばまともに弾けずじまいという状況は今も変わらない。おそらくハープシコードとのデュオ版の方がギターは弾きやすいだろうと見込んで、近々楽譜を取り寄せようと思っている。


この曲のオリジナルともいうべき「ギターとハープシコードのための前奏曲」。手持ちのナクソス盤からアップ。アダム・ホルツマンのギター、ステファニー・マーチンのハープシコード。


同じくハープシコードとのデュオ版。これくらいのテンポで弾くとハープシコードが何を弾いているかよく分かる。


同曲のギター独奏版。名器トーレスを弾く松田晃演(1933-)。少々オールドファッションだが、説得力のある演奏だ。



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No title

お久しぶりです。
この前奏曲ホ長調とバレットは、私のレパートリーの中でお気に入りのセットです。いろいろと演奏を聴いてみると、奏者によって微妙に楽譜が違っていたりして、聴くのはセゴビアの演奏が好きですが、お手本としては鈴木大介氏のサラッとした演奏を参考にする事が多いです。

私は現代ギターてんこもりBOOK掲載分と松尾俊介氏の楽譜集を使っていますが、この二つは運指も違いますし、スラーの有無や位置も結構異なっていて、もうそのあたりは自分の好みで弾いて良いのではないかと思っています。与太さんの仰るとおり、66と70小節目の指の拡張が難所で、以前、ここで手を無理に広げすぎて指を痛めた事があります(苦笑)

セゴビアの演奏はyoutubeで晩年?の動画を見られますが、CDで聴ける50年代の録音の方が、軽快で勢いのある演奏になっています。私はそちらの方が好みですね。音もハウザー1世かと思うのですが、ちょっとシャリシャリしていて、晩年のラミレスのマッタリした音との対比が面白いです。

Re: No title

ブチャラティさん、こんばんは。
久しぶりですね。お変わりありませんか。オルディゲスも元気かな?(^^;
バレットとのセットは調性も同じだし、いいコンビネーションかと思いますね。
記事にも書きましたが、ギターソロ版では短二度のぶつかりなどを再現するため左手が厳しいですよね。和音もチェンバロパートの分を盛り込んでいるでしょうし…。おそらくチェンバロとのデュオ版ではその辺りはチェンバロが受け持っていて、ギターパートは案外弾きやすいのではないかと、まだ見ぬ勝手な胸算用をしています。 セゴビアの古い録音も手元にありますが、ハウザー1世の古いスパニッシュを思わせる音と共にキレのあるよい演奏だと感じます。

ごぶさた…

しております❗️

私はアルカサールがメキシコで出版した「ポンセ ギター作品全集」の楽譜を使っています❗️
最後にテーマが再現したりと興味深い楽譜です🎵

Re: ごぶさた…

Mazaさん、こんばんは。
アルカサール編のポンセは、以前から前奏曲集を手に入れようと思いながら、そのままです。そもそも最近ギターそのものを弾いていない…嗚呼。
> 最後にテーマが再現したりと興味深い楽譜です
…なるほどね。ポンセは全般にセゴビア色で塗りつぶされていた感が強いわけですが、元々の意図は随分と違っていたのでしょうかね。
プロフィール

マエストロ・与太

Author:マエストロ・与太
ピークを過ぎた中年サラリーマン。真空管アンプで聴く針音混じりの古いアナログ盤、丁寧に淹れた深煎り珈琲、そして自然の恵みの木を材料に、匠の手で作られたギターの暖かい音。以上『お疲れ様三点セット』で仕事の疲れを癒す今日この頃です。

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