若杉弘没後10年
相変わらず梅雨空の週末日曜日。何気なくPCを覗いていたら、きょう7月21日は指揮者若杉弘の命日と出ていた。2009年のきょう7月21日に74歳で亡くなった。没後10年。そうかぁと思い出し、今夜はこの盤を取り出した。


アルノルト・シェーンベルク(1874-1951)によるブラームス(1833-1897)ピアノ四重奏曲ト短調の管弦楽編曲版。若杉弘(1935-2009)指揮ケルン放送交響楽団による演奏。1978年のライヴ録音。十年程前にALTUSレーベルからリリースされたもの。同じくブラームスの悲劇的序曲がカップリングされている。
若杉弘(1935-2009)は70年代から90年代にかけてドイツに根を下ろして完全に現地のスタイルを身に付け、溶け込んで活躍した。音楽や言葉はもちろん、ドイツやヨーロッパの歴史、文化など様々なものに精通し現地の人をも驚かせたという。「指揮者とは音楽的教養だ」と言ったのは誰だったか。 彼こそは日本人にしてその資格を持ち合わせた指揮者だった。この盤には1980年前後、彼がケルンを本拠地としてコンサート指揮者として、また歌劇場のシェフとして活躍を本格化させた時期の録音が収められている。今夜はその中から、シェーンベルクによる管弦楽編曲のピアノ四重奏曲ト短調を選んでプレイボタンを押した。
まったく隙のない、整然とし、かつ深くドイツの伝統に根ざした演奏だ。まずケルン放送交響楽団の音が素晴らしい。弦楽群を中心にすべての音がよく溶け合い、どこかのパートが突出することはない。同時にそれらのブレンドされた音響が決して肥大化してぼってりとはならず、溶け合いながら同時に分離もよい。タクトポイントに対してやや遅れて入ってくるアインザッツがいかにもドイツ風で鳥肌が立ちそうになる。オケのメンバーが互いによく聴き合っているのだろうし、そもそもドイツの音楽、それもブラームスをどう演奏するかを身体で知っているに違いない。そしてもちろんそれらを統率して彼らの力を引き出している若杉弘のコントロールによるところも大きい。
この曲に限らずブラームスの交響曲や管弦楽曲は後期ロマン派ながら構成としては古典的かつ室内楽的に作られていると思うのだが、ついドイツ的重厚長大さを前面に出して、重く肥大化させてしまう演奏も多い。それはそれで一つの魅力ではあるのだが、この若杉弘とケルン放響きの演奏を聴くと、これが本来のブラームスだと納得する。シェーンベルクのアレンジは総じてよく出来ていて、違和感なく楽しめる。原曲のピアノ四重奏版ももちろん渋く素晴らしいが、こうして管弦楽版を聴くと、見落としがちなモチーフや経過句にもスポットライトが当たったようにクローズアップされてくる。スコアを見るとごくシンプルに書かれてはいるが音の響きが厚く、いかにもブラームスだ。また四分音符を刻むパートと一緒に、付点音形や三連符が同時進行するブラームスの特徴的な音形。渋い第1楽章、歌にあふれる第3楽章も印象的。全編これブラームスを聴く楽しみに満ちている。
手持ちの盤からアップした。ブラームス(1833-1897)ピアノ四重奏曲ト短調・管弦楽編曲版の第1楽章
ハイドンの交響曲第44番ホ短調「悲しみ」を振る若杉弘。
若杉 弘×大賀典雄
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