本家トーレス検分



少し前になるが、モダンギターの原器ともいうべきアントニオ・デ・トーレス作のギターをゆっくり検分する機会があった。備忘のため、差し支えない範囲で記しておく。


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クラシックギターを少々かじり、弾くことと同時に楽器そのものの成り立ちに興味をもった人であれば、アントニオ・デ・トーレス(1817-1892)については大なり小なり見聞きしていることだろう。あらためてその仔細を記すつもりも知識もないが、現在一般的に使われているクラシックギターと称されるナイロン弦(かつてはガット弦)仕様ギターの原器の一つとして、多くのギタリスト、製作家にとってアイコンであり続けている。また、ヴァイオリンにおけるストラディバリウスと対比され、ギター界のストラディバリウスと称されることもある。詳細は以下のURLを参照されたい。ギター製作家ホセ・ロマニリョスによるトーレスに関する著作の抜粋と、ギタリスト手塚健旨氏のエッセイが閲覧できる。
https://www.auranet.jp/salon/yomimono/torres/

トーレスを手に取って弾いたのは今回で2回目。1回目はかれこれ十年程前のこと。当時はまだギターを再開して間もない頃で、トーレスの実機に触れられることの貴重さをそれほど理解していなかった。それでも枯れ切った音の素晴らしさ、どっしりとした低音共鳴(低音ウルフ)と軽く立ち上がる高音は強く印象に残った。今回の機会は偶然で、ある販売店に一日だけ在庫するということで「与太さん、きょう時間があれば見られますよ」との話があり、タイミングよく拝見することが出来た。

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楽器の詳細を記すことは差し障りがあるかもしれないので控えるが、ともかく今回みたトーレスは、現存するトーレスの中でも一、二を争う逸品であることに間違いはない、そう断言できるほどの楽器だった。写真の分かる通り、全体に年月を経た古色蒼然たる風貌ではあるが、楽器としての機能的な状態がすこぶる良好だった。表板の変形は皆無、ネックの状態や仕込み角もパーフェクト、駒周りの変形等なく、弦と骨棒の接触角もベストな状態だ。

外見上の状態の良さがそのまま音にも現れていて、低音から高音まで万遍なく鳴り、ストレスなく発音する。金属製トルナボスが付けられており、その効果もあって低音のウルフトーンはE~Fと低い。併せてそのダンピングが適正で、ボンッの一音で収束してしまうことなく、適度なサステインを伴なっている。高音は軽いタッチで立ち上がり、はじけるように鳴る。「ずっと弾いていたくなる」という表現があるが、まさにその感じだ。音量を出してバリバリ弾こうという気持ちよりは、余韻を確かめ、味わいながら、単音のメロディーをゆっくり弾きたくなる。そんな気分にさせる楽器の反応だった。

一時間ほど、ぼくと同席したある製作家とあれこれ話をしながら弾いたり眺めたり、夢心地のひととき。「参りました」の一言と共に楽器をケースに納め、トーレス検分の儀終了。いきなり卑近な現実に戻るのはいかがなものかと思いつつも「上代は如何ほどで…」と聞き、店主が開いた指の本数を見て、思わず小声を上げてしまった。その指の本数はぼくの予想の倍…。まあ、確かにこの楽器なら…と納得しつつ、店をあとにしたのでありました。


試奏したトーレスはこれ。ザグレラス所有だった由。


プジョールが使っていたというトーレスを奏でるアンドリュー・ヨーク。楽器もさることながら、ギターでもこれほどまでに豊かなイントネーションでメロディーが歌えるのかというお手本。



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マエストロ・与太

Author:マエストロ・与太
ピークを過ぎた中年サラリーマン。真空管アンプで聴く針音混じりの古いアナログ盤、丁寧に淹れた深煎り珈琲、そして自然の恵みの木を材料に、匠の手で作られたギターの暖かい音。以上『お疲れ様三点セット』で仕事の疲れを癒す今日この頃です。

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