ストラヴィンスキー「春の祭典」



今年の冬もぼちぼち終わり。結局、暖冬だったなあ…。
季節の中でいつが好きかと聞かれたら、迷わず秋・冬と答える。反対に春と夏は苦手だ。夏は物理的に、春は心理的に意気消沈する。満開の桜の下をガールフレンドと手をつないで歩いた思い出でもあればいいのだろうが、とんと縁がなかった。受験に失敗した、片思いすらまともにで出来なかった、それに反して世間は浮き立つ…そんなところが原因だろうか。春の生暖かく、どろっとした空気感と、どこか浮世離れした光景とが合わさると、どうもいけない。しかしそんな気分の春になると聴きたくなる音楽もあって、ストラヴィンスキー「春の祭典」、ドビュッシー「牧神」などはその一つだ。春にはどこか妖しく、残酷かつエロティックな空気がある。そんなことを考えつつ、こんな盤を取り出した。


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コリン・デイヴィス(1927-2013)とアムステルダム(ロイヤル)コンセルトヘボウ管弦楽団(ACGO)によるストラヴィンスキー<春の祭典>。1976年録音。手持ちの盤は1978年LP初出時のもの。十数年前、例によって出張先大阪の名曲堂阪急東通り店で買い求めた。

録音当時の70年代半ばは、盛り上がりつつあったオーディオブームと成熟期を迎えていたアナログ録音技術のピークとが重なり、オーディオ的訴求力のある曲や録音が次々と発売された。ストラヴィンスキーの「春の祭典」もそうした時流にのって、かつてのアンセルメやモントゥーの盤に代わる世代のものとして、ブーレーズ盤、メータ盤などが話題となった。そんな中、このコリン・デイヴィス&ACGOの盤はまさに真打登場のごとく迎えられ、その優秀な録音と伝統的な欧州サウンドによって、ベストセラーになったと記憶している。

久しぶりに針を落としてみたが、やはりこの盤の最大の魅力はACGOの音色と、それを見事にとらえたフィリップスの優秀な録音にある。冒頭、大地礼賛の序奏でファゴットがテーマを奏で、それに木管群が次第に絡んでいくあたり、各ソロ楽器の聴こえ方がホールでの実演に近い。前後左右の広がりが見事に再現されている。主部に入ってからの弦楽群や木管群は終始柔らかい響き、そして金管群もあまり出しゃばらない。まるで古典的交響曲のバランス。一方、決め所で現れるグランカッサやティンパニなどが左奥方向から強烈な一撃を響かせる。特に第二部の中盤以降の打楽器群は雄弁だ。
ダイナミズムはメータ&ロスアンジェルス盤より控え目だし、精緻な構成はブーレーズ&クリーヴランド盤に譲るだろう。この盤の魅力は何といってもACGOによる伝統的なオーケストラサウンドだ。コリン・デイヴィスがあまり個性を強く押し出すタイプでないことも奏功している。初演時には大騒ぎになったこの曲だが、この演奏を聴いていると、まったくもって古典的で、ヨーロッパの伝統の中にしっかり根付いているように感じられるから不思議だ。


この盤の音源。


ハルサイのアナリーゼとエピソード



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Author:マエストロ・与太
ピークを過ぎた中年サラリーマン。真空管アンプで聴く針音混じりの古いアナログ盤、丁寧に淹れた深煎り珈琲、そして自然の恵みの木を材料に、匠の手で作られたギターの暖かい音。以上『お疲れ様三点セット』で仕事の疲れを癒す今日この頃です。

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