シューリヒトのワグナーアルバム



五月終わりの日曜日。つい先日まで肌寒いくらいの日が続いていたが、ようやく初夏を感じさせる陽気になった。この時期になると聴きたくなる音楽の一つにワグナーがある。夏のバイロイト音楽祭に何となくつながるイメージが出来上がっているかもしれない。欧州からみれば地の果てのような極東の片隅で、そんなことを思いながら、さて今夜はこんな盤を取り出した。


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カール・シューリヒト(1880-1967)がパリ音楽院のオケを振ったワグナーアルバム。1954年のモノラル録音。手持ちの盤は70年代にキングから出ていたロンドンレーベル廉価盤シリーズ中の一枚。確か学生時代に買い求めたはずだから、かれこれ四十年以上経過している。収録曲は以下の通り。

1. 楽劇「トリスタンとイゾルデ」~前奏曲
2. 同~愛の死
3. 楽劇「神々の黄昏」~夜明けとジークフリートのラインへの旅
4. 同~ジークフリートの死と葬送行進曲

シューリヒトというと、玄人受けはするものの今ひとつ録音に恵まれず、マイナーな存在であることは否めない。実際ぼくの音盤棚にある彼の盤を思い起こしてみても、音質の冴えないコンサートホール盤が何枚かと、ややメージャーなところではウィーンフィルとのブルックナーの8番があるだけだ。そんな中にあってこのモノラル録音のワグナーアルバムも地味な存在かと思われるが、どっこい中々に雄弁かつ押し出しのいい演奏だ。

シューリヒトらしく、すっきりとした造形ともたれないテンポ設定ではあるが、あっさりとしている感じはない。むしろ濃いめの味付けといってよい。ワグナーらしい息の長いフレーズはもちろんだが、その中のいくつか存在する短いモチーフの対しても表情付けがかなり積極的で起伏に富む。また各パートが団子にならず、入りと出が明確だ。モノラル録音ながら、そうした各声部の動きや描き分けが明瞭に聴き取れるのは、録音条件ばかりではなくシューリヒトの指示によるところが大きいだろう。

「トリスタンとイゾルデ」はこの曲に期待し予想する展開を十分に満たしてくれるし、「神々のたそがれ」からの有名なくだりもしかりだ。フルトヴェングラーの熱っぽさや悲劇性、クナッパーツブッシュの巨大な造形、そうした流儀とは異なるアプローチだが、少なくても「地味でマイナー」というシューリヒトに対する接頭語は、この演奏に限ってはまったく当たらない。手元には何枚かのワグナーアルバムがあるが、その中でも個性光る名演奏だ。


この盤の音源でトリスタンとイゾルデ「前奏曲」。冒頭、調性のはっきりしないフレーズを<トリスタン和音>(減五短七=m7♭5)でつなげながら進行する。


同「愛の死」


近代和声への扉を開いたともいわれる<トリスタン和音>についての解説。
弾いているのは1876年、バイロイト祝祭劇場完成を祝してスタインウェイからワグナーに贈られたピアノとのこと。


弦楽合奏による「前奏曲と愛の死」



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Author:マエストロ・与太
ピークを過ぎた中年サラリーマン。真空管アンプで聴く針音混じりの古いアナログ盤、丁寧に淹れた深煎り珈琲、そして自然の恵みの木を材料に、匠の手で作られたギターの暖かい音。以上『お疲れ様三点セット』で仕事の疲れを癒す今日この頃です。

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