スペイン伝統工法



都内のクラシックギターを扱う店では、このところ世代交代ともいうべき変化が相次いでいる。老舗の現代ギター社は島村楽器の傘下に入り、神田明神のメディアカームは創業者酒井氏が亡くなり、スタッフだった服部氏が社長になった。先日、KEBONY材ギターの試奏で訪れたアウラも設立以来切り盛りしてきた本山さん・鎌田さんから、石川さん・吉田さんに代替わりした。経営者の交代はそのまま経営方針・業態の変化となることも多く、小さなショップであればその変化のスピードは速いだろう。


202009_Spanish_Guitar.jpg


アウラでは石川社長になって以来、従来からのお抱え製作家達のプレゼンスを上げるべく、スペイン伝統工法の伝承をテーマにしたプロモーションに力を入れているようだ。フランスのハイエンドマガジン「ORFEO」への記載や中国での展示会出品など、意欲的なアプローチが目立つ。中でも関係の深い製作家、尾野薫、田邊雅啓、アルベルト・ネジメ・オーノ、禰寝碧海(ネジメ・マリン)、佐久間悟、栗山大輔、清水優一の7名をスペイン伝統工法を伝える製作家としてフォーカスし、その作品やそこに至る歴史的背景についてHPや冊子で紹介している。

以下に多くの記事がある。
https://www.auranet.jp/salon/yomimono/guitarra-espanola/
(写真右手に写っている冊子を配布中)

ギターは構成する部品点数がヴァイオリン属などと比べると格段に多い。またその組み立ても様々側面がある。そのあたりは十数年前にアルベルト・ネジメ・オーノ(禰寝孝次郎)氏の書いた「スペイン式クラシックギター製作法」(写真)も大いに参考になる。何をもって「スペイン伝統工法」と称するかはアウラのHPに詳しいが、大雑把にいえば、アントニオ・デ・トーレス(1817-1892)以降、20世紀初頭辺りまでに確立したモダンギターの製作手法といっていいだろうか。60年代後半以降、新たな材料や手法が試みられ、現在も様々な新しいトライアルが行われて、それらは時代の要求に応えるものとしてプロ・アマ問わず多くのギター弾きに受け入れられている。同時に、20世紀前半までの伝統的な手法・音作りに回帰する動きも顕著だ。

先日訪問した際に試奏した禰寝碧海、栗山大輔、清水優一の新作は、いずれも伝統工法によって作られた素晴らしい出来映えの楽器だった。個性の違い、範としたモデルの違いはあるが、どの作品も精度高く隅々まで丁寧に作られ、音の反応も高音・低音いずれもはじけるように感度の高い鳴りっぷりに感心した。どんな楽器を選ぶかは人それぞれだが、ひと昔前のような海外製至上主義のような状況ではなくなっている。もちろん海外製ギターはスペイン、ドイツ、イギリス、フランス、それぞれに個性豊かで、音を楽しむにもデザイン・材料など独自の雰囲気を楽しむにもよい選択だが、同時に日本製ギターも先に挙げた国内製作家他、次世代を担うに値する製作家が出てきていて、十分選択に値するものと感じる。


以下はアウラのYOUTUBEチャンネルにある紹介動画。林祥太郎氏の演奏。
尾野薫…オリジナルモデル2019年 ピアソラ「タンティ・アンニ・プリマ」佐藤弘和編曲。


栗山大輔…トーレスモデル2018年 カルロス・ガルテル「想いの届く日」レオナルド・ブラーボ編(おそらく)


清水優一…ロマニリョスモデル2019年 マラッツ「スペイン・セレナーデ」


禰寝碧海…フレドリッシュモデル2019年 カタロニア民謡「聖母の御子」



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Author:マエストロ・与太
ピークを過ぎた中年サラリーマン。真空管アンプで聴く針音混じりの古いアナログ盤、丁寧に淹れた深煎り珈琲、そして自然の恵みの木を材料に、匠の手で作られたギターの暖かい音。以上『お疲れ様三点セット』で仕事の疲れを癒す今日この頃です。

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