ラミレスに喝ッ!
ようやく秋めいてきて、空気も乾き出す頃。湿度に敏感なギターも夏の多湿から抜け出て、気持ちよく鳴るようになる。そしてそれに合わせて、弦も新しいものに張り替えようかという気分になってくる。弦の張替えは面倒だという輩もいるようだが、ぼくなどはギターにまつわるもっとも心おどる作業の一つだ。先日は手持ちの楽器のうち、ホセ・ラミレス1978年を取り出し、久々の弦替えとなった。
ラミレスにはオーソドクスなナイロン弦を張ることがほとんどだったが、今回は少し気分を替え、かねてトライしようと思っていた新しい弦を張ることにした。同時に、というより、話の順序としてはこちらが先なのだが、以前試した「なんちゃってトルナボス:O-Port」をまた取り出し、弦替えとの合わせ技でラミレスに喝を入れ、音質改善を試みることにした。

樹脂製アタッチメント式のトルナボスについては以前の記事に詳しく書いた通りだ。元々音響エネルギーバランスが摩天楼型のラミレスから、何とかもう少し豊かな低音を得たいという難題に対する策としてO-Portに目を付けたのが数年前。結果としては、元々G#~A付近にあった低音のレゾナンスが一気にF~F#まで下がり、6弦ローポジション全域が豊かに鳴るようになったが、反面、高音域の減衰が大きく、ラミレス本来の艶やかな高音が失われてしまい、全体としては失うものの方が大きいという結論だった。今回このバランスを改善すべく、高音弦の鳴りの良さが評判のドーガル社(伊)の弦「マエストラーレ」を使ってみることにした。ドーガル社の弦といえば、ぼくはマンドリン用の弦としては認知していたが、近年ギター用の、しかも個性的な弦をラインナップして話題になっていた。さて、その首尾はいかに…


マエストラーレ弦の高音弦3本は一般的な透明でなく、ブルーの着色が施されている。新素材ポリマーとの触れ込みだが、一般のナイロン弦に比べるとかなり硬い印象。実際に張ってみると、評判通りの太く大きく鳴る。よく鳴るといってもサバレス・アリアンス弦に代表される通称カーボン弦のような、やや甲高い鳴り方とは違い、基音が支配的で倍音(高調波成分)は少なめ。その結果先に記した通り、太い音という印象になる。もっともこれはO-Port有り状態でのマエストラーレ弦の印象。O-Port無しの素の状態ではまた異なるだろう。
O-Portによって失われた高音域の音圧のかなりの部分がマエストラーレ弦の鳴りの大きさで復活し、増強された低音域とのバランスも相当程度改善される。しかし残念ながら音色感に違和感が残る。ナイロン弦を付けたラミレスから得られる、十分なサステインと艶やかな音色はやはり得られない。摩天楼型エネルギーバランスで高音は華やかに鳴るラミレスのイメージが後退し、どっしりとした低音と太く鳴る高音から得られる落ち着きのある、まったく別の楽器になった感がある。樹脂製トルナボス、ブルーの高音弦、弦留めチップ…と中々の変態仕様。ラミレスとしてではなく、まったく見知らぬ新しいギターとして接すれば、これはこれでアリという印象だ。
O-portの素材は樹脂、しかも表面が細かな梨地仕上げになっていることが、高音域の減衰に影響しているのかもしれない。素材や大きさ(サウンドホール方向の深さ)などを吟味すれば、高音域の減衰は抑制可能ではないかと思う。いずれ機会をみて、更なる変態仕様をトライしてみよう。
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