ローラ・ボベスコのクライスラー
週半ばの木曜日。関東地方は先週末から一気に気温が下がり、どうしたものかと思っていたが、今週に入って幾分もち直してきた。それでも通勤時の上着はこれまでのリネンから厚手のコットンに替えた。そろそろ秋本番だろうか。さて、本日も程々に業務に精励。夜半前の弛緩タイム。温かい飲み物を片手に、こんな盤を取り出した。


ローラ・ボベスコによるにクライスラー名曲集。1921年生まれ(諸説あり)のボベスコは2003年に亡くなるまで長いキャリアを持つ。きっとぼくの世代よりも上のオールドファンが沢山いることだろう。ブロンドで美貌のヴァイオリニストとしても知られ、還暦を過ぎた頃の来日時の写真を見てもそれとわかる。この盤は晩年日本で人気が再燃した頃、1984/85年の録音。ピアノ伴奏はフィリップスのプロデューサとしても高名だったウィルヘルム・ヘルベック。手元の盤は十数年前にフィリップスの廉価盤として出たときのもの。収録曲は以下の通り。フリッツ・クライスラー(1875-1962)の主要作品20曲が収められている。
愛の喜び
愛の悲しみ
美しきロスマリン
中国の太鼓
ウィーン奇想曲
ベートーヴェンの主題によるロンディーノ
ボッケリーニのスタイルによるアレグレット
クープランのスタイルによるルイ13世の歌のパヴァーヌ
昔の歌
ウィーン風小行進曲
ロマンティックな子守歌
シンコペーション
レチタティーヴォとスケルツォ・カプリース
おもちゃの兵隊の行進曲
プニャーニのスタイルによるプレリュードとアレグロ
コレルリの主題による変奏曲
ルクレールのスタイルによるタンブーラン
ジプシーの女
オーカッサンとニコレット
道化役者のセレナード
第1曲『愛の喜び』が始まってすぐ、その音色に耳を奪われる。特に中音域から低音にかけて豊かで深く、そして濃い。時折り音程の甘さが気になるところがないではないが、それよりも音色の魅力が勝る。引き合いに出すのは適当でないかもしれないが、五嶋みどりなどとは対極といってもよいほどだ。今どきは不適切表現と言われそうだが、十八歳の小娘と大人の女の懐深さの違いとでも言おうか。ぼくのお気に入り「ウィーン小行進曲」も収録されていて、五嶋みどりと比べると面白い。ボベスコの演奏はテンポが二段階くらい遅く、一つ一つの音がたっぷりとしている。低弦のビブラートの揺れに聴く側の心まで揺さぶられそうだ。がしかし、表現としては過度なところはなく、音楽の品格が高い。ゆったりしたテンポ、豊かな音でよく歌うが妙なコブシや嫌味なテンポ・ルバートはなく音楽が自然に流れていき、どこまでもチャーミングだ。懐は深いが厚化粧の大アネゴではない。
ぼくのレコード棚にある女性ヴァイオリン奏者の盤を思い起こしてみた。ローラ・ボベスコ、イダ・ヘンデル、ジネット・ヌヴー、ミシェル・オークレール、チョン・キョン・ファ、ナージャ・ソネンバーグ、ヴィクトリア・ムローヴァ、前橋汀子、潮田益子、五嶋みどり、諏訪内晶子、庄司紗矢香、神尾真由子…。それら美しきミューズ達の中にあって、このボベスコの小品集はひときわ色濃いロマンティシズムをたたえた名盤だ。
手持ちの盤からアップ。愛の悲しみ・美しきロスマリン・ウィーン小行進曲の3曲。
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