カサドのチェロ
今から半世紀前1970年前後、LPレギュラー盤が二千円の時代、廉価盤が千円で出て大いに人気を博した。高校生のバイトが一日千円の時代。一日働いて廉価盤LP一枚分。今なら高校生が一日バイトすれば七、八千円というところだろうから、新譜のレギュラーCDで3枚。レコード、CDは鶏卵並みの物価の優等生ということか。 さて、そんなことを考えつつ、手元にある当時の廉価盤の中からこんな盤を取り出した。

スペイン生まれのチェリスト:ガスパール・カサド(1897-1966)によるハイドン、ボッケリーニ、ヴィヴァルディのチェロ協奏曲を収めた盤。ぼくら世代に懐かしいジャケットデザインの70年代初頭に出ていた日本コロンビア廉価盤シリーズの一枚だ。但し、これはその当時買ったものではなく、十数年前に例によって出張の折に大阪・梅田の中古レコード店でワンコインで手に入れたもの。ほとんど新品といえるほどジャケットもピカピカ、盤面もまったくきれいで半世紀前のものとは思えないノイズレスの音が楽しめる。
カサドというと時代的にはカザルスの影に隠れたり、他の多くのチェリストの中にあって演奏者として格別の人気を誇ったとはいえない。むしろ作曲や編曲などで名前が知られているかもしれなし、何より日本人ピアニストの原智恵子(1914-2001)を伴侶としたことの方が耳目を引く(玉川学園のこちらのサイトに詳しい)。また、同じスペインということでセゴヴィアとも交流があり、この盤にも収められているボッケリーニのチェロ協奏曲をギター用に編曲したことでも知られる。
さて米VOX原盤のこのレコード。A面のハイドンからして何とも優雅で大らかな演奏だ。ゆったりとしたテンポ、大きく歌うチェロ、バックを務めるヨネル・ペルレア指揮バンベルク交響楽団もカサドの指揮に合わせるように急がず、騒がず、穏やかに曲を進める。ハイドンの曲としてはもう少し溌剌とした生気があってもいいように思うが、これはまさにカサドの風格を聴く盤だろう。ヴィヴァルディのホ短調の協奏曲は荘重な第1楽章で出しからカサドのそうした持ち味がピタリと合って素晴らしい出来だ。ボッケリーニもハイドン同様、一音一音を慈しむような弾きぶりだ。ハイドンとほぼ同時代を生きたボッケリーニだが、この演奏で聴いているとハイドンよりもややあとの時代の音楽に聴こえてくる。演奏スタイルで曲の持ち味が変化する好例かもしれない。現代的な視点でみれば、カサドのチェロは技量にいささか問題有り、演奏スタイルも一時代前のものということになるのだろうが、そうした成績表の○×だけで音楽の良し悪しが決まるわけではないところに音楽の意味深さがある。この盤は演奏家の風格とか味わいといったものの存在を改めて教えてくれる。
この演奏のCD音源。ハイドンチェロ協奏曲ニ長調作品101の第1楽章。
カサドと原千恵子の協演
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