トーマス・ザンデルリングのブラームス
秋深し。そろそろ晩秋の趣き。晩秋と言えば…この秋ブラームスを聴いていないなあ…と思い出し、こんな盤を取り出した。

ドイツの指揮者トーマス・ザンデルリンク(1942-)がフィルハーモニア管弦楽団を振ったブラームスの交響曲全集。1996年録音。写真のような少し変わったパッケージにCD4枚が収められている。イタリアのDARPRO.S.r.l.というレーベルからリリースされたもので、パッケージに書かれている解説もすべてイタリア語という異色盤。発売された直後、HMVのサイトで新譜にも関わらず千円ちょっとで叩き売られていたのをみて手に入れた。
いうまでもなくトーマス・ザンデルリンクはクルト・ザンデルリンク(1912-2011)の子息。90年代には大阪シンフォニカーの音楽監督を務めていたこともあって日本でもおなじみだ。兄弟のシュテファン(1964-)、ミヒャエル(1967-)も指揮者あるいはチェリストとして活躍している。
悠然と流れるブラームス。全4曲ともかなりテンポの遅い演奏に属するだろう。ブラームスの交響曲の中ではもっとも演奏時間の短い第3番も(この曲のみ第1楽章提示部繰り返しがあるが…)40分以上を要している。遅いテンポといえばクレンペラーやバルビローリあたりを思い出すが、テンポ以外の解釈は随分と異なる。 そして、ゆったりとしたテンポをさらに助長するかのように、レガートなフレージング、弦楽群の音価いっぱいのボウイング、管楽群のやや暗めの音色、マスの響き重視の録音。そうしたものが相まって、この演奏のソフトフォーカスなイメージが出来上がる。こう書くと腑抜けでしまりのない演奏のように聞こえてしまうかもしれないが、レガートなフレージングもよく考えられたディナーミクを伴っていて、曲の進行と共に単なるヒートアップとは違う高まりを感じさせる。特に第4番あたりは相性がよく、冒頭の詠嘆調の出だしから始まってじわりじわりと進むうちに次第に聴く側の心の内が熱くなってくる。一方、第1番などはやはりもう少しごつごつとした肌合いが欲しくなるところだ。
ザンデルリンク父とベートーヴェン交響曲全集を録音しているロンドンのフィルハーモニア管はさすがに腕達者、かつ元々ウォルター・レッグのもとEMIのレコーディングオケとして誕生した由来もあってか指揮者への順応性が高く、ここでもトーマス・ザンデルリンクの解釈を十分具体化している。録音は管楽器群をやや遠めにとらえ、個々の解像よりはマスの音場感重視。コントラバスの低いピッチも確実に再現されて、全体に渋い響きのブラームスにはふさわしい音質だ。イタリア仕込みのユニークなパッケージデザイン、トーマス・ザンデルリンクの悠然たる解釈とそれに応えるフィルハーモニア管の実力、そして渋めで調和重視の録音など、あまたあるブラームス演奏の中でも隠れた名盤といえる。
この盤の音源で第4番ホ短調。全4楽章
同第3番ヘ長調。全4楽章
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