川畠成道「美しき夕暮れ」
今年も残りわずかとなった。昨年来のコロナ禍が続く中、単調な毎日の繰り返し。次第に時間の感覚がなくなって、一年前が昨日のことのようにも十年前のことにようにも思えるようになった。加齢も極まれりか…。 さて、暮も押し詰まったとはいえ、これといった趣向もなく、いつもの体でこんな盤を取り出した。

2007年春発売の川畠成道のアルバム。60年代にカラヤン&ベルリンフィル他、独グラモフォンの名録音収録に度々使われたベルリン・イエスキリスト教会で録音された。滅多にレギュラープライスの新譜や話題の盤を手にすることはないのだが、この盤は十年程前たまたま駅前の大手スーパー閉店セールで見つけ、他のいくつかの盤と一緒にレジに持っていった。収録曲は以下の通り。ヨーロッパの中心から少し離れたスラヴやジプシー由来の音楽、フランス近代や映画音楽など、中々考えられた小品集。
・美しき夕暮れ(ドビュッシー)
・ユモレスク(ドヴォルザーク)
・ルーマニア民族舞曲(バルトーク)
棒踊り/腰帯踊り/足踏み踊り/角笛踊り/ルーマニア風ポルカ/速い踊り
・剣の舞(ハチャトゥリアン)
・熊蜂の飛行(リムスキー=コルサコフ)
・ニーグン(ブロッホ)
・白鳥(サン=サーンス)
・スペイン風セレナーデ(シャミナード)
・ギターレ(モシュコフスキー)
・ツィガーヌ(ラヴェル)
・ハンガリー舞曲NO.7(ブラームス)
・ただ憧れを知る者のみが(チャイコフスキー)
・アヴェ・マリア(カッチーニ)
・ひばり(デニィーク)
・ひまわり(マンシーニ)
雑誌を眺めながらオーディオのボリュームを少し絞り気味にしてプレイヤーのスタートボタンを押すと、アルバムタイトルになっているドビュッシーの「美しき夕暮れ」が、ハッと耳をひく音色で流れてきた。録音の調整具合もあるのだろうが、ぼくのセットで聴く限り、丸みを帯びた、やや鼻が詰まったような懐かしくも美しい音色だ。ドビュッシーのこの曲に実に相応しく、思わず雑誌から目を離し、しばしスピーカーに耳を寄せて聴き入ってしまった。
20曲に及ぶ収録曲。技巧的な曲と豊かな歌にあふれる曲と入り混じっているが違和感は感じない。全体を不思議な静寂と抑制が支配しているように感じる。バルトークのルーマニア民族舞曲では力強いボウイングで民族的な雰囲気をよく出しているが、決して荒っぽく叫んではいない。シャミナードのスペイン風セレナードとモシュコフスキーのギターレなどは軽やかかつ穏やかな仕上がりだ。
こうしたポピュラー小品は弾き手のセンスがそのまま出る。キャッチーなメロディーにあふれる小品群は安易に弾いてもそれなりに聴き手を楽しませるが、少し身を入れて聴くとそうした演奏はすぐに馬脚をのぞかせ、およそ鑑賞に耐えない。この盤ではそうした危惧は皆無だが、惜しむらくは伴奏を付けているロデリック・チャドウィックのピアノが録音バランスのためか、少々デリカシーに欠けるときがある。川畠成道のヴァイオリンはどの曲にも真剣、真面目、誠実に取り組んでいる様子が独自の美しい音色を通して伝わってくる。夕映えを面に受けたジャケット写真の印象そのままの、自然で心にしみるアルバムだ。
年の暮。穏やかに流れる3曲を選んで手持ちの盤からアップした。
「美しき夕暮れ」「ただ憧れを知る者のみが」「アヴェ・マリア」
フォーレ「夢のあとに」
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