杉浦栄次郎編「J.S.バッハ ギター独奏編曲集」



先週は関東のそこここら桜開花の知らせがあったり、小雪舞う寒の戻りがあったりと、まさに季節の変わり目を実感。気付けばもう三月末だ。暖かくなったこともあり、引き続き左手人差し指の不調はあるが、ボチボチ楽器にも触れている。きのうの日曜日も、最近手に入れた楽譜を開いて初見トライを楽しんだ。


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開いた楽譜は「J.S.バッハ ギター独奏編曲集」(ドレミ出版)。広島でギター教室を主宰している杉浦栄次郎氏によるもの。少し前にAmazonでポチって手に入れた…ではなく、編者の杉浦氏から直接送ってもらった。実は少し前に杉浦氏からこのブログにコメントをいただいたのを機に少々メールを交換。「弾いてみますか」ということで、ご厚意に甘えて送っていただいたもの(杉浦さん、ありがとうございます)。


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世のクラシックギター弾きの多くは少し腕を上げると必ずバッハにトライする。その対象となる曲はリュートあるいはそれに類する楽器のための作品として認知されているBWV995~1000・1006aが大きな柱だ。他には無伴奏チェロ組曲や無伴奏ヴァイオリンのためのソナタや組曲にもいくつかギター編の出版譜があって、近年演奏される機会も多くなった。

長らく教会務めだったバッハを象徴するカンタータやオルガン曲を除いて器楽曲の基本をなる鍵盤曲だけに絞っても、バッハにはまだまだ多くの名曲があるが、その多くはギター弾きには無縁だ。二声・三声のインヴェンション、平均律クラヴィーア曲集、パルティータ、フランス組曲、イギリス組曲等は、およそバッハを習得しよう場合に必ず触れる作品だと思うが、ギター弾きには縁遠い。もちろんギター曲ではないので、そのまま弾けないという事情はある。しかし弾かない弾けないはいいとしても、そもそも聴きもしない、興味もない輩が多いのは残念だ。

そんなクラシックギター弾きにとってこの曲集は画期的だ。
選ばれた100曲余の多くは鍵盤曲であるインヴェンション、平均律クラヴィーア曲集、パルティータ、フランス組曲、イギリス組曲から採られている。鍵盤曲がかつてこれだけまとまって独奏ギター向けに編曲されたことはなかったと思う。杉浦氏は対位法を含むこれらの曲の編曲にあたり、元のピアノ譜から「何も引かない、何も足さない」を意図したそうだ。「編曲ではなく転写と言えるかもしれない」と緒言に記しているが、鍵盤曲の大きな山の中からこれだけの曲を選び、ギターで演奏可能な調性を検討し、適切な運指を決め…こうした作業はおよそ単なる転写レベルの仕事ではない。さっさとややこしい中声部を省き、あるいは安易に低音部を付加する、そんな編曲もしばしば見受けられるギター譜とは一線を画す。

楽譜をパラパラと眺めただけだが、ハイポジションでの多声部を処理する曲も多く、技術的な難易度は高い。どの曲も簡単にすらすら弾き通すのは難しいが、丁寧に各声部を拾って原曲の響きを確認したり、あるいは思いがけずギターでの響きが充実する箇所を発見したりと、興味の尽きない楽譜だ。そして何より、ギター譜をさらうことがきっかけで、原曲の鍵盤曲を聴き進めるようになれば、バッハの世界はより広く深く開けてくるように思う。

編者杉浦栄次郎氏が「300年を超えてバッハと対話を」と唱え、十年をかけて練りに練った並々ならぬバッハ愛を感じる労作。通り一遍のバッハ曲に飽き足らない輩、あるいは手垢にまみれた従来のレパートリーとは異なるアプローチをトライしてみようという向きにも好適の曲集。強力プッシュの一冊だ。


杉浦氏の弾くBWV639 佐久間悟作のギターが多層的な響きで十全に応える。


BWV639のオリジナル


ギターによるパルティータ第1番BWV825



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Author:マエストロ・与太
ピークを過ぎた中年サラリーマン。真空管アンプで聴く針音混じりの古いアナログ盤、丁寧に淹れた深煎り珈琲、そして自然の恵みの木を材料に、匠の手で作られたギターの暖かい音。以上『お疲れ様三点セット』で仕事の疲れを癒す今日この頃です。

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