豊田耕児&群馬交響楽団 メンデルスゾーン交響曲第4番イ長調「イタリア」・ウェーバー「オベロン序曲」



テレビ番組の影響か、昨今おらが群馬の評価はイマイチだ。民度が低いの、山と温泉しか思い浮かばないのと見当違いの認識が流布されている。実は県民は200万人(ほぼ)いるし、勤労者のほとんどは県内で雇用されている。農業県としてもちろん第一級だが、工業製品出荷も中々のものだ。走り屋ご用達の水平対向エンジン搭載のスバルは当地の産。日本で食べられるハーゲンダッツアイスクリームは国内唯一の当県工場で作られている。戦後の宰相を福田(父)・中曽根・小渕・福田(子)と四人も輩出した。そして何よりの誇りは地方プロフェッショナルオケの草分けである群馬交響楽団があることだ。 きょうは先回の記事に続き、地元では群響「グンキョウ」の名で親しまれている群馬交響楽団の録音を取り上げる。取り出したのは1980年録音のウェーバーとメンデルスゾーンが収録されたLP盤だ。


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群馬交響楽団の旧本拠地:群馬音楽センター。アントニン・レーモンド設計の名建築だ。
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群響の歴史は戦後間もなくの頃にさかのぼる。映画「ここに泉あり」(昭和29年・1954年)の世界だ。しかし高度成長期の60~70年代の活動は正直なところ低迷が続けた。ぼくが高校の頃、70年代初頭の定期演奏会は、ステージ上の団員と客席の聴衆が綱引きをしたら客が勝つのではないかというほどの入りのこともあった。取り上げるプログラムも古典派から初期ロマン派に限られ、より大規模で複雑な後期ロマン派や近現代の曲が取り上げられることはほとんどなかった。そんな群響に転機が訪れたのが70年代から80年代に移ろうとしているときだった。当時ベルリンで活躍していたヴァイオリンの豊田耕児(1933-)が指揮者に迎えられた。彼の本場ドイツ仕込みの音楽を群響に徹底的に教え込んだという。そうした結果の最初の成果がこのレコードだ。

もう40年近く前のことになるが、このレコード聴いたとき、そしてこのコンビの演奏会を聴いたとき我が耳を疑った。これがあの群響かと。それまでぼくの知る群響は、ともかくひと通り演奏できるというレベルで音に精細はなく、管楽器はいつも音がひっくり返りという印象しかなかった。ところが豊田耕児の指揮する群響は颯爽として弓をひき、アンサンブルは引き締まって整い、弦と管がよくブレンドしてバランスのよい響きだった。きょう久々にこのレコードの針を落とし、当時のそうした懐かしい思いがこみ上げてきた。

ぼくの大好きなオーケストラピースの筆頭であるウェーバーのオベロン序曲。いまの感覚で聴くと確かにいくつか気になるところもないではない。弦はもっと艶やかに、そして表情豊かに歌ってほしい、第2主題を吹くクラリネットはもっとたっぷり吹いたらどうか、ピアニシモで入ってくる管楽器群の音程がいささかあやしい等々。しかし、当時としては格段の進歩だったし、世に残る録音をこれをきっかけに何枚も出すという、大きな節目の時期の演奏だ。メンデルスゾーンのイタリア交響曲は、開放的な曲想ゆえか群響の面々もリラックスしているのが分かる。弦楽群の音が明るく思い切りがいい。豊田耕児の音楽作りはアンサンブルをよく整え、各パートのバランスを細かに指示して、楽曲そのものに語らせるているのだろう。無理がなくナチュラルでフレーズがよく流れる。このレコードのあと豊田耕児と群響のコンビは、当時ベルリンフィルの首席だったカール・ライスターを招いて一連のレコーディンやコンサートを行うなど、80年代初頭の第一期黄金期ともいうべき時期を迎えることになる。


この盤の音源。メンデルスゾーン交響曲第4番「イタリア」第1楽章 1980年録音


同 第3楽章


ウェーバー「オベロン序曲」



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Author:マエストロ・与太
ピークを過ぎた中年サラリーマン。真空管アンプで聴く針音混じりの古いアナログ盤、丁寧に淹れた深煎り珈琲、そして自然の恵みの木を材料に、匠の手で作られたギターの暖かい音。以上『お疲れ様三点セット』で仕事の疲れを癒す今日この頃です。

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