群馬交響楽団第580回定期演奏会
きのう土曜は群馬交響楽団(群響:グンキョウ)の定期演奏会へ足を運んだ。

前回聴いたのが今年始め、1月の定期演奏会だったから半年ぶり。4月からの新年度としては初めてとなる。地元ゆえ毎月聴けないことはないのだが、ちょこちょこ野暮用と重なり、思うに任せないでいた。今回はどうしても聴きたいプログラムだったこともあって、ぼくにしては珍しく、かなり前からチケットを予約してきょうを迎えた。
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ラフマニノフ/ピアノ協奏曲第3番ニ短調作品30
ストラビンスキー/バレエ音楽「春の祭典」
ピアノ:清水和音
指揮:高関健 管弦楽:群馬交響楽団
2022年7月23日(土)16:00~ 高崎芸術劇場
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このところ暑さの戻ってきた関東地方。この日も朝から夏の陽射しが照り付けた。暑さ未だ癒えぬ午後3時過ぎに会場到着。予約しておいたチケットを受け取り、ロビーでひと息ついてからホール内へ。真夏のコンサートにも関らず席は9割程度埋まっている。定刻の16時ちょうど団員入場。客電が落ち、チューニングが始まった。
前半は清水和音を迎えてラフマニノフ。ラフマニノフのピアノ協奏曲といえば第2番がもっともポピュラーだが、近年は第3番も同程度に取り上げられるそうだ。ぼく自身は学生時代にこの第3番と第2番とにほぼ同時期に親しみ、第3番も第2番に劣らずよく聴いた。清水和音はデビュー30年を記念して2011年に、ラフマニノフのピアノ協奏曲第1~4番全曲とパガニーニの主題による狂詩曲とを一度に演奏するという快挙を成し遂げたと、プログラムに記されていた。還暦を迎える年齢だろうが、まだまだコンサートピアニストとして第一線のバリバリ。難曲揃いのラフマニノフもお手の物に違いない。
きょう聴いてあらためて思ったのだが、ラフマニノフのピアノ協奏曲はやはり中々難しい。難しいというのはピアニストにとって難曲であるとか、複雑難解で聴き手には少々辛いとか、そういうことではない。第2番にもいえることだが、レコードやCDで聴いているのと実演での印象が中々一致しないのだ。ピアノの音をしっかりピックアップして管弦楽とのバランスを整えた録音で聴いていると、音数が多く様々な細かなことをやっているピアノの動きがよく分かるのだが、実演ではピアノの動きが管弦楽に埋もれがちになり、よほどこの曲に親しんだ聴き手でないと、ピアノと管弦楽との「協奏」を楽しむのは難しいと感じる。同じように有名なチャイコフスキーの協奏曲などは、ピアノと管弦楽のコントラストが常に明解だし、ピアノパートが管弦楽から自然と浮かび上がって聴こえているように作られている。それに対してラフマニノフは、ピアノが確かに難しいいろいろなことはやっているのだが、それらが管弦楽に埋もれがちで、聴き手側が努めてピアノを聴こうと意識する必要があるように感じる。もっともそうした響きが、ラフマニノフらしい濃厚なロマンティシズムそのものともいえる。きょうの演奏はそれでも、高関氏の軽快なオケコントロールによって、管弦楽の表情が豊かで、曲として散漫な印象はなく、濃密ながらも引き締まった音楽だった。ピアノの技巧についてはよく分からないが、清水和音の弾きぶりは余裕十分でまったく危なげはない。同時に力ずくになることもなく好印象だった。40分を越える大曲を弾き終えたと、鳴りやまぬ拍手に応え、アンコールとしてチャイコフスキーの「白鳥の湖」から「四羽の白鳥」(アール・ワイルド編)が演奏された。
休憩をはさんで後半はストラヴィンスキー「春の祭典」
きょうのコンサートをかなり前から予約したのは、高関健によるこの曲を聴きたかったからに他ならない。譜読みの深さとオーケストラコントロールに関して、今や高関健は本邦随一ではないかと思う。「春の祭典」は彼の得意なレパートリーの一つのようで、かつてN響を振ったときの名演は今でも語り草になっているそうだ。
ステージいっぱいに広がった4管編成オケ。曲は冒頭ファゴットのソロで始まる。ファゴットが出せる最高音まで使うこのソロ。この日は首席奏者の奈波和美が担当。大曲冒頭のソロで最高音域ということもあり、やはり奏者としては緊張MAXになる場面なのだろうか、やや音が不安定になる。幸い大きな破綻には至らず次のフレーズへと進む。管楽器群、弦楽群、徐々に音の数と厚みましながら曲は進み、印象的な弦の刻み音型に突入。もうその辺りまで進むとオケ全体としての堅さはなくなり、聴く側もこの曲の醍醐味にひたり始める。 高関氏の指揮ぶりはさすがのひと言だ。スコアは置いてページをめくってはいるものの、指揮ぶり自体はほとんど暗譜同然に見える。複雑な変拍子の振り分けとアクセントの指示、出入りを繰り返す各パートへのサイン…。演奏中ぼくの目はほとんど高関氏の指揮ぶりに釘付けだった。高関氏の指示に応えて群響の各パートも思い切りのいい音出し。8名揃ったホルンパートは時折りベルアップして強奏。この曲のかなめである打楽器群も1900名収容の大空間を音圧で満たす。最強音から一瞬の休止そして最弱音、そして再び最強音。新しい本拠地となった会場のアコースティックも奏功し、本来のディナーミクがきっちり再現されていた。
19世紀ロマンティシズムの最後を飾るラフマニノフ、そして20世紀幕開けとその後の音楽に大きな影響を与えたストラヴィンスキー。盛夏の暑気払いに…と言っては少々軽くなってしまうが、近代オーケストラサウンドの醍醐味を堪能できた素晴らしい演奏会。耳に残る大団円の響きに酔いながら、幾分涼しい風が吹き始めた宵の会場を後にした。
演奏会直前練習後、高関氏へのインタビュー
清水和音がアンコールとして演奏したアール・ワイルド編「四羽の白鳥」
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