五嶋みどり ヴァイオリン愛奏曲集を聴く

10月も半ばだというのに、きのうの昼間も随分と暑く、夜になっても不快な一日だった。夜半には雨が降り出し、雷が鳴る有様だった。灯火親しむの頃とは程遠い。もっとも、夜、根気よく活字を追うこちらの気力も体力も衰えて久しい。安楽椅子にだらしなく座り、安直かつ怠惰に音盤を聴くか、お気楽な雑誌を眺めるのがせいぜいだ。昨夜は、そんな煮え切らない気分を少しでもしゃきっとさせようと、すっきりと切れのよい五嶋みどりのヴァイオリン小品集のアルバムをセットした。


五嶋みどり 愛奏曲集


この盤の録音は1992年、五嶋みどりが二十歳のときのもの。デビューから数年が経ち、すでに実力・名声とも第一級に達していた時期だ。このアルバムにはクライスラーやサラサーテをはじめ、ヴァイオリンのポピュラーな小品が並んでいて、二十歳の彼女の上品かつフレッシュな演奏が楽しめる。実はぼくは最近までこうした小品集のたぐいはあまり好まなかった。ヴァイオリンやピアノを聴こう思い立つと、ついつい大規模な協奏曲を選ぶことが多かった。小品集をまともに聴くようになったのは、先日紹介したヤニグロが弾くチェロの小品集に出会ってからのことだ。先にも記したが、ときにCDのトラック半ばで(LPならA面が終わったところで)休憩をして、一夜のリサイタルを気分で楽しむ風情が中々よい。

この盤は、『アンコール!ヴァイオリン愛奏曲集』と題されていることからして、五嶋みどりのお気に入りの小品がチョイスされているのだろう。どの曲も自然で快活な歌いまわし、テンポはもたれず、フレッシュさは比類がない。音程が極めて正確でビブラートも控えめなためか、一聴すると線が細いような印象すらあるが、音に力が無いわけではない。G線をフォルテで弾ききるときの音などは迫力も十分だ。収録曲の中でぼくのお気に入りは、クライスラーの『ウィーン小行進曲』だ。軽快なテンポで、印象的な短調のメロディーを奏で、ときに見せる音のタメや脱力など、二十歳とは思えない憎いばかりの歌いまわしだ。彼女は社会貢献にも積極的で、日本のみならず途上国の学校を無給で回るなど、人柄も好感が持てる。2005年秋、サントリーホールで彼女が弾くシベリウスのコンチェルトを聴く機会があった。CDでの印象同様、演奏は素晴らしくピュアで、ステージマナーも謙虚で誠実な印象だった。
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マエストロ・与太

Author:マエストロ・与太
ピークを過ぎた中年サラリーマン。真空管アンプで聴く針音混じりの古いアナログ盤、丁寧に淹れた深煎り珈琲、そして自然の恵みの木を材料に、匠の手で作られたギターの暖かい音。以上『お疲れ様三点セット』で仕事の疲れを癒す今日この頃です。

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