グールド&ストコフスキーの「皇帝」
深まる秋。当地近郊の街路樹も色付いて美しい。そして次第に気温も低下。今朝から通勤着をウールのジャケットに替えた。季節感を楽しめる貴重な時期だ。仕事は相変わらず自転車操業。きょうも程々に働き、溜息と共に退勤した。さて、ネクタイもといベルトを緩めて一服。アンプの灯を入れ、先日来聴いていたアンチェルで思い出した(下に貼ったYouTube音源参照)この盤を取り出した。


グレン・グールド(1932-1982)の弾くベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番変ホ長調「皇帝」。1966年5月、ストコフスキー指揮のアメリカ交響楽団との協演。当時グールド34歳、ストコフスキー84歳。グールドはベートーヴェンのピアノ協奏曲を全曲録音しているが、ストコフスキーとはこの5番のみ。他はバーンスタインやゴルシュマンと合わせている。手持ちのLPはまだCBSがソニーの軍門に下る前、1966年の国内盤で発売元は日本コロンビアになっている。
「皇帝」というサブタイトル通り、この曲は堂々と恰幅よく演奏されるのが常だ。しかしグールドのアプローチはまったく異なり、何ともリリカルで繊細にこの曲を扱う。出だしからテンポを少々遅めに取り、ピアノに与えられたフレーズをともかく丁寧なタッチでいつくしむように弾いている。第2楽章のアダージョ・ウン・ポコ・モッソはもちろんだが、ロンドの第3楽章でさえ、ときに神秘的な静寂が支配する。テクニカルな面でまったく不安のないグールドだから速いパッセージも華麗に弾ききるのだが、力ずくのところがない。つまりフォルテシモさえも抒情的に扱っている。そして抒情的ではあるが主情的に弾き散らかしているわけでなく、音楽の骨格は古典的な様式感の上にしっかり乗っていて安定している。この演奏は「皇帝」という自信に満ちて堅固なイメージでなく、若き日の憧れに満ちた第5協奏曲だ。
この盤の音源。全3楽章
グールドが1970年に地元トロントのオーケストラと協演した第5協奏曲の第1楽章。指揮は先日来聴いていたチェコの名匠カレル・アンチェル(1908-1973)。アンチェルはチェコ事件を契機に米国へ亡命し、その後1969年に小澤征司の後任としてトロント響の指揮者となった。
同 第2・第3楽章
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