群馬交響楽団&ケク=チャン・リム チャイコフスキー交響曲第5番ヘ短調
令和五年にちなんだNo.5しばり。きょうはこの盤を取り出した。

群馬交響楽団(群響:グンキョウ)によるチャイコフスキー交響曲第5番ヘ短調。指揮は1928年オランダ領ボルネオ生まれのインドネシア系中国人のケク=チャン・リム(Lim Kek-tjiang 林克昌1928-2017)。1981年5月の録音。
これは名演だ。群響がこれまでに残した録音の中で最も優れた録音の一つだと断言できる。久々に針を降ろしたが、あらためて唸ってしまった。 録音は井阪絃率いるカメラータ東京によって行われているが、当時の群響本拠地:群馬音楽センターではなく、隣り町渋川市にある渋川市民会館で収録された。群馬音楽センターは残響の少ない極めてデッドなホールで録音後処理でのエコー付加が欠かせない。この録音では渋川市民会館のナチュラルエコーが効いているのだろう、オケの音全体に適度で自然な残響が加わっている。弦と管の距離感も程よい具合だ。カメラータ東京技術陣はきっと慣れないホールでのマイクセッティングやミキシングに腐心したことだろうが、その結果は盤の出来に十分反映されている。
そして何より指揮者ケク=チャン・リムの曲作りには感服した。この曲を貫くほの暗さとロマンティシズム、そして終楽章の勝利。そのすべてがあるべき形で提示されている。全体にテンポ設定は遅く、第1楽章には17分近くをかけている。これはチェリビダッケの18分台には及ばないが、セルより3分遅く、ムラヴィンスキーより6分も遅い。遅いテンポを取ると一般には音楽の彫りが深くなり、一つ一つのフレーズが持つ意味合いがより明確に提示される。反面、オケのコンロトールが不十分だと緊張感や統一性に欠け、いろいろやっているが全体として何を言いたいのか不明といった演奏になることもしばしばだ。しかしこの盤では群響がケク=チャン・リムの彫りの深い音楽作りによく反応し、緊張感を維持している。ケク=チャン・リムはもともとヴァイオリニストで、著名なコンクールのファイナリストに残るほどの名手だったそうだ。そのせいか弦楽群のフレーズの作り方が巧みで、やや濃い口の歌わせ方だが、緊張と解決をうまくコントロールしている。何気ない第3楽章のワルツなども実に雰囲気があって、フレーズがフワッと浮き立ち、心地よく収束する。

以前取り上げた豊田耕児と群響による古典と初期ロマン派の整った音楽作りはそれまでの群響とは一線を画するものであったが、ケク=チャン・リム指揮のこのチャイコフスキーは、更に一皮むけて深く濃いロマンティシズムをたっぷりと聴かせる力が群響にあることを示した名盤と言えるだろう。
よくぞこのLP盤音源をアップしてくれた。チャンネル主催者のブログにも、この曲の名演として紹介されている。
ケク=チャン・リムは60年代には中国本土で様々な活躍をしたが文革のため西洋音楽が排除され、その後ときの周恩来の計らいもあってマカオに移ったそうだ。検索してみたら2000年代に入って、台湾の企業グループがスポンサーになって出来た長栄交響楽団の初代シェフに就いていることを知った。同団との演奏があったので貼っておく。
同じチャイコフスキーの5番
カヴァレリア・ルスティカーナ間奏曲。濃厚な味付けだが、よくコントロールされていて素晴らしい!
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