モントゥーの「英雄」



クラシック音楽に親しむようになってから半世紀。その間、最も多く聴いた交響曲はといえば間違いなくベートーヴェンだろう。貧乏学生時代に何とかやりくりして最初に集めたレコードはベートーヴェンの交響曲だった。しかし近年、ベートーヴェンの交響曲をあまり聴かなくなった。ハイドンやシューベルト、メンデルスゾーンあたりを聴く機会が多い。学生時代にあれほど聴いたブルックナーやマーラーを鳴らすことも少なくなった。そんなことを思いながら、さて週末金曜日。実は少し前から通勤車中で「英雄」を聴いていたこともあって、今夜は久々に懐かしい盤を取り出した。


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ピエール・モントゥー(1875-1964)がアムステルダムコンセルトへボウ管を指揮した1962年の録音。手持ちの盤は70年代半ばに出ていたフィリップス系廉価盤レーベル:フォンタナの一枚。このジャケットを懐かしむ同年代の輩は多いだろう。ナポレオンのアルプス越えの雄姿もこの盤で目に焼き付いた。 学生時代に初めて「英雄」のレコードを買おうかと思い品定めをした際、リハーサル風景が収録されているという理由でこの盤を選んだ。もちろん廉価盤という条件は大前提だ。今にして思えば、結果的にいい盤を選んだなあと思う。久々に聴いてこの盤の素晴らしさにあらためて感服した。

第1楽章冒頭の二つの和音。コンサートで指揮者の棒を見ているときは、最初の和音に続いて二つ目の和音が鳴るタイミングは当然分かる。しかしレコードやCDで聴いていると、その二つ目の和音のタイミングがわからない。自分なりのテンポ感で聴いたときにピタリとくる演奏とそうでないものがある。久しぶりに聴いたこのモントゥー盤はそれがピタリときた。その二つの和音のあと、主題の提示は少し遅めのテンポかなあと思っていると、まもなくテンポが少し上がってきて、以降はいい感じのテンポになる。弦セクション、管セクションともにアクセントやスフォルツァンドの処理が実にスマートで、音楽が生き生きとよく流れる。全体を通して、しなやかによく歌う。当時のモントクーは最晩年の87歳だったが、まったく年齢を感じさせない。モントゥーは晩年までテンポが遅くならず、すべてが明快だったと聞くがが、この録音を聴くと納得する。

弦楽群は対向配置を取っていて、第2主題などは1stヴァイオリンから2ndヴァイオリン、そして木管群へと受け継がれていくのがよく分かる。これは配置と録音だけではなく、モントゥーとコンセルトヘボウの面々がそれぞれのパートの音量バランスやボウイングなど巧みにコントロールしているからに違いない。展開部の盛り上がりやコーダに向かう終結部でも各パートがよく分離し、力ずくの混濁感は皆無。それでいて迫力にも不足はない。

第2楽章も久々にじっくり聴くと感動的な楽章だ。終盤のフーガはジワジワと盛り上がり、そのピークを承知していながら、やはり鳥肌物だ。この盤に収録されているリハーサル風景は第2楽章のもので、冒頭の装飾音付の合わせにかなり時間を使っている。後半の楽章も相変わらずコンセルトヘボウの巧さに耳がいく。武骨さとは無縁で流麗に流れる音楽だが、あいまいなところがない。各パートの出入りや分離が明快だ。加えてテンポ感覚が実にいい。少なくてもぼくにはベストのタイミングで次から次へと音が出てくる。ごく自然体でスコアに忠実な演奏のようだが、細かなところまで配慮が行き届いている。

あらためてネットでこの盤についてサーチしてみると、ぼくの想像以上に評価が高く、あちこちで絶賛の嵐。一時期はCDが廃盤でプレミアムが付いたと聞いて驚いた。久々のモントゥーのエロイカ。けだし名演でありました。


この盤の全曲。 第1楽章終盤、例のトランペットは<ほぼ>原典通り。第2楽章のフーガは22分3秒から。右手から聴こえてくる2ndヴァイオリンから始まり、ティンパニを伴った低弦群の入り22分41秒で最初の身震い。ホルンの強奏23分9秒で2回目の身震い。ついで23分22秒ティンパニの一撃で更に身震い。そして23分39秒から緊張MAXだ。
YouTubeにはこの録音の音源がいくつかアップされているが、この音源が一番すっきりとしていて、ぼくには聴きやすい。



この盤に入っていた第2楽章リハーサルの音源。



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Author:マエストロ・与太
ピークを過ぎた中年サラリーマン。真空管アンプで聴く針音混じりの古いアナログ盤、丁寧に淹れた深煎り珈琲、そして自然の恵みの木を材料に、匠の手で作られたギターの暖かい音。以上『お疲れ様三点セット』で仕事の疲れを癒す今日この頃です。

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