現代ギター誌を読む_#1_1967年4月号
あるギター指導者から雑誌「現代ギター」をまとめてお預かりすることになり、第一陣として1967年の創刊号から10年分程が私の手元にやってきた。


ぼくより少し年上にあたるそのギター指導者と話をしていた際、手持ちに楽譜やレコード・CD等を将来どうするかという話になった。「与太さん、レコードどうするの?」「先生、楽譜どうするの?」…ぼくのレコードなどものの数ではないが、その先生の楽譜や資料は質・量ともに相当なボリュームがある。将来、散逸してしまうのは惜しい…。そんな話をしているうちに、創刊から50年余になる雑誌「現代ギター」を将来、誰か若い世代の愛好家に引き継ぐことを前提に、ひとまず私が引き受けることになった。貴重な資料を浅学非才なぼくなどに譲っていただいたことに大いに感謝している。折角の機会でもあり、このブログでかつての同誌を少しづつ紹介していこうと思う。
クラシックギターを扱った月刊雑誌「現代ギター」は1967年4月に創刊された。現在70歳以上の愛好家の中には当時の記憶をお持ちの方も多いだろう。60年代当時、洋楽ポップス、カレッジフォーク、グループサウンズ等々の隆盛を背景にギターは大変なブームになっていた。もちろんその多くはいわゆるフォークギターやエレキギターだったが、ナイロン弦を張った伝統的なクラシックギターもその恩恵を受けていた。すでに戦前からクラシックギターを扱った雑誌が発刊されていたが、その多くは同人誌に近いもので、商業ベースで定期刊行され、その後も生き残って現在に至っているのは「現代ギター」が唯一といってよい。

さて、1967年4月の創刊号。「レコード演奏家像・レコードにきくギターの魅力」と称された特集が組まれている。60年代半ばといえば、いわゆる中流家庭の玄関横には小さながらも応接間が設けられ、そこには平凡社の百科事典とコンソール型ステレオを置かれるのが常だった。80年代のオーディオブームが若い世代を中心として流行だったとしたら、60年代のステレオブームはその前段として一般家庭への導入期だった。クラシックギターのレコードも流通し始めたこともあって、創刊号ではそうした時代を反映する特集になったのだろう。
取り上げられている演奏家はセゴビア、プレスティとラゴヤ、アリリオ・ディアス、ジュリアン・ブリーム、ナルシソ・イエペスといった具合で、その後も現在に至るまで名の知られたギタリストが並んでいた。中では今日あまり顧みられないアリリオ・ディアスが紹介されているのが目をひく。何より驚くのはその執筆陣だ。村田武雄、遠山一行、小石忠雄、菅野浩和といった、その後のクラシック音楽一般の評論で活躍する面々が名を連ねている。その内容もおそらく編集部から送られたレコードを聴いて簡単なインプレッションを書いたものと予想していたが、先に挙げた演奏家の実演にも接していて、その印象も交えてレコードで聴かれる音楽を語っているのには驚いた。ギターの音量や音色、他の楽器との比較、ギターで奏される音楽の時代性やその表現等、実に的確に捉えていて、「ギターが好き」「ギター音楽が好き」といった、いわば「仲間うち」の話だけに終わっていない。このあたりは、この雑誌の創刊にあたって、クラシックギターを市井の楽器から一段引き上げ、クラシック音楽に関わる他の楽器と同じステージに上げようという心意気が強く感じられる。もちろん、高橋功、中野二郎といった「仲間うち」からの創刊に期待する提言もあって、その内容は今にも通じるクラシックギター界の課題が明快に記されている。
創刊号の表紙(写真)にはハウザー1世作ギターのサウンドホールが実寸大で写されている。本文中には「銘器紹介」として松田二郎(松田晃演)所有のこの楽器の詳細データが記されている。それによると、セゴビアが使ったことで有名な1937年製ハウザーと同じ年の製作で弦長は652㎜。そして重量が1350gと軽いことに驚く。…表面板以外は薄く全体に軽い、音は枯れて雑音が少ない。低音は巾があり全体のバランスは良い…と松田氏のコメントが記されている。また、クラシックギター専門誌、それも創刊当時のものとしては意外であるが、「ギターで歌おう」という弾き語り記事もあって、コードストロークの奏法やコードの押さえ方などが図と共に示されている。
この創刊号が出た1967年4月にぼくは中学入学。まだギターを知らない田舎の中坊。それから1年後に初めてギターを手にしてコードを掻き鳴らすことを覚えた。クラシックギターを知り、楽譜を見てギターを弾くことを始めるのは更に3年後のことだ。その辺りの記憶も呼び起こしながら、手元にやってきた現代ギター誌を少しづつ紐解いていこう。

創刊号では1967年3月22日(こちらの資料では2月22日)、京本輔矩のギター独奏と小船幸次郎指揮横浜交響楽団によるヴィラ・ロボスのギター協奏曲初演の様子が紹介されている(写真上)。この曲はブリームの録音で一時期よく聴かれたが、昨今あまり耳にしない。
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