ザンデルリングの「英雄」
先日聴いたケンペ盤の「英雄」で思い出し、音盤棚で隣りに並んでいたこの盤を取り出した。

最後の巨匠ともいわれたクルト・ザンデルリンク(1912-2011)がフィルハーモニア管弦楽団を振ったベートーヴェン交響曲全集。1980~81年のデジタル録音。手持ちの盤は20世紀が終わる頃、激安ボックスセットで出たときのもの。80年代初頭の録音ということだから、当初のリリースはLPだったはずだが、話題になった記憶がない。全曲が録音されていながらLP時代のリリースは一部にとどまったようで、このCDセットで初めて全容が明らかになったといっていいだろう。手持ちのDiskyCommunication版ボックスセットは、Disk-1に入っている第1番が第3楽章までで終わり、第4楽章はDisk-5へ飛ぶという、廉価ボックスとはいえ少々難有りの編集がいただけないが、その後再発されたセットは6枚組みになり楽章割付も正常化、加えて同時期に録音された序曲類も入って、まともなセットになった。きょうはこの中から第3番変ホ長調「英雄」の盤を取り出し、プレイヤーにセットした。
さて「英雄」。ベートーヴェンの9曲ある交響曲でよく聴くのはどれか…という自問自答をすると、若い頃から今に至るまで間違いなく最上位にくる曲だ。近年は第2番や第8番を聴くことが多いが、第3番を聴き始めると、斬新な楽想、周到な構成、感情表現の質と量等々、やはりこの曲の存在の大きさを再確認する。 ザンデルリングは全体にややゆっくりめのテンポを設定し、あわてず騒がず曲を進める。おそらく初めて聴くと物足りなさを感じるかもしれないが、聴き進めていくうちにじわじわとその手中にはまり、スケールの大きな音楽の流れの中に身をおく感覚に包まれる。第1楽章冒頭のトゥッティなど、いささか力感が不足するように感じるが、曲の進行に伴って次第に熱量を上げていき、展開部のクライマックスに至る頃には響きの充実感に冒頭の不足感など吹き飛んでしまう。第2楽章以下も同様のアプローチで、次第に聴く者を引き込んでいく。指揮者への適応能力と演奏能力共に高いフィルハーモニア管弦楽団の好演もあって、充実した一時間を約束してくれる演奏だ。
この盤の音源。全4楽章
「音楽と情熱」ベンジャミン・ザンダーによる第1楽章のレッスン。
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