ノリントンの「英雄」
先日来時折聴いている「英雄」。きょうはこの盤を取り出した。

ロジャー・ノリントンと彼が1978年に設立したロンドン・クラシカル・プレイヤーズ(LCP)によるベートーヴェン交響曲全集(メルヴィン・タンとのピアノ協奏曲全曲も含む)。1986~88年の録音。ピリオドオケによるベートーヴェンとしては初期のもの。前後してブリュッヘンやガーディーナーなどの録音が出るようになり、ピリオドオケによるベートーヴェンあるいは古典派交響曲演奏の隆盛期を迎えることになる。またノリントンはその後1997年に着任したシュトゥットガルト放送交響楽団とライヴ演奏で再録音している。
ぼく自身それまでピリオドオケによる演奏に特別な興味はなく、手元に十数組あるベートーヴェンの交響曲全集もみなモダンオケによるものばかりだった。中ではデイヴィッド・ジンマン&チューリッヒトーンハレと高関健&群馬交響楽団による全集がモダンオケながら新しい研究成果を取り入れた演奏で、いくらか<ピリオド寄り>といえるものだった。モダンオケの重厚長大もいいが、そろそろピリオドオケも聴いてみようかと思っていた矢先に「7枚組2千円!持ってけ泥棒」的に叩き売られていたのを見つけて手に入れた。
第1番から第9番まで、いずれもよく整ったアンサンブルと明るい音色で前へ前へと進む音楽の推進力が素晴らしい。しばしば強打されるティンパニーは雷鳴のごとく辺りの空気を一変させ、突き抜けるようなホルンは生命の飛翔を後押しするかのようだ。
第3番変ホ長調「英雄」は、重厚長大に慣れ親しんだ耳にはいささか軽量級に過ぎるかと懸念したが杞憂に終わった。第1楽章から速めのテンポでたたみかけるように進み、ティンパニや各パートのアクセントが曲にクサビを打ち込みように決まる。この演奏を聴いたあとでモダンオケの、それもやや古いスタイルの独墺系オケの演奏を聴いたら、きっとそちらの方に「なぜそれ程までに重い荷物を力ずくで引っ張っていくような演奏をするのか」と違和感を感じるだろう。また各パートがはっきり分離してそれぞれの動きがよく分かるので、モダンオケでは埋もれがちなフレーズがあちこちで顔をのぞかせ、こんなことをやっていたのかと気付かされるポイントが多々ある。そしてベートーヴェンがいかに革新的であったかもあらためて実感する。あまたあるウィーン古典派の温厚かつ予定調和的な曲があふれていた当時に、これらベートーヴェンの曲がこうした演奏で響き渡る様はさぞ刺激的で聴衆を驚かせたに違いないと、再認識させられる。
第3番の第1楽章。2008年冬シュトゥットガルト放送交響楽団との来日公演@サントリーホールと思われる。フル編成モダンオケにピリオド風の味付け。奇異なところはまったく感じない。素晴らしい解釈とそれをオケに徹底させた手腕は大したものだ。ヴァイオリンは対向配置、コントラバスはウィーンフィルのニューイヤーコンサートで見られる後方一列(高関健&群馬交響楽団でもしばしばこの配置を取っていた)。管楽器の一部とティンパニーが古楽仕様かと思う。
3分00秒提示部を繰り返し、6分過ぎから展開部へ。7分24秒:通常のモダンオケの演奏では中々聴こえないホルンのスケールで展開部の佳境に入る。弦楽群がフーガ風に短いパッセージを繰り返しながら次第に緊張を高める。7分40秒あたりからヘミオラも入って更に盛り上がり、7分56秒にティンパニーとトランペットの一撃。そして8分14秒の短二度の激しいぶつかり合いで頂点を迎える。そして8分20秒からの弦のトゥッティによる単純な音形が展開部の山場の終わりを告げるように奏され8分24秒からの木管群のメロディーへつながる。
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