フェリシア・ブルメンタール(p)18世紀ポルトガル鍵盤音楽
月が改まって令和五年葉月八月。猛暑続く。めげずに未聴音盤の在庫確認。きょうはこの盤を取り出した。

少し前にベートーヴェン秘曲集を取り上げたフェリシア・ブルメンタール(1908-1991)による18世紀ポルトガルの鍵盤曲集。1976年3月ロンドン・チェルシーでの録音。手持ちの盤はオーディオ機器メーカー:トリオ(現JVCケンウッド)が当時立ち上げたレコード部門トリオレコードから出た国内盤。ジャケットデザインにはブルメンタールと交流のあった藤田嗣治が書いた彼女のデッサンが使われている(写真)。

18世紀ポルトガル音楽と言われても、一般のクラシック愛好家にはあまり馴染はないだろう。スペインと共にかつては世界に名を馳せたイベリア民族の国ではあるが、その伝統も近現代も音楽に関しては知られていない。ぼくももちろん予備知識はゼロの等しい。しかし音が出てみれば、その魅力的な響きにしばし時を忘れた。
この盤の収録曲でも過半を占めているのが、ぼくも唯一名前は知っていたカルロス・セイシャス(1704-1742)の作品。そしてそのセイシャスに当時の鍵盤音楽の流儀を伝えたのが、ナポリ生まれでその頃リスボンに音楽教師として招かれていたドメニコ・スカルラッティ(1685-1757)だった。D・スカルラッティは1719年から1729年までリスボンに滞在し、その後スペインへ移った。夭折したセイシャスはD・スカルラッティの弟子の中でも逸材だったようだ。 この盤に収められているカルロス・セイシャスの数曲のソナタはスカルラッティ由来のバロック風2部形式で、聴きなれたスカルラッティの作品に通じることはすぐに分かる。もっともスカルラッティが数百曲に及ぶソナタを書いたのはスペインに移ってからのことで、セイシャスとスカルラッティの関係が子弟だけでなく、相互に影響した可能性もあると、濱田滋朗氏がライナーノーツで記している。そしてセイシャスの作品ばかりでなく、収録されている他の作曲家の作品も短調作品が多く、一様に深い抒情をたたえていて美しい。
先回のベートーヴェン秘曲集同様、ブルメンタールのマイナー路線の一つであるかも知れないが、すでに50年代にスペインとポルトガルのハープシコード曲集と題した3枚組のLPを出していてることも考えると単なる思い付きではなく、彼女が常日頃から愛想してきた曲を最良の形で世の残したかったのだろう。
この盤の音源。カルロス・セイシャスのソナタ・ホ短調
同 ソーザ・カルヴァーリョのソナタ・ト短調
ブルメンタールが50年代に録音したスペイン・ポルトガルの鍵盤曲集
60代後半のブルメンタール。スカルラッティ、ベートーヴェン、ショパン等。日本風に言えば「明治生まれ」のブルメンタールはホロヴィッツやアラウ、リリー・クラウスなどと近い世代だ。この時代の演奏家にはやはり独自の風格がある。
カルロス・セイシャスの曲はスカルラッティ同様、ギターでも弾かれる。
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