ギター名器 試奏記


夏の間は湿気が多く、ギターの音も湿りがちだったが、10月に入ってから日々湿度も下がり、楽器の状態はすこぶるいい。晴れた秋の空のごとく、カラッと反応がよくなる。心理的バイアスも相当加わっているかもしれないが、そればかりでもないだろう。先日も窓を開け放ち、ケースを広げて乾いた空気を楽器に吸わせてやった(写真左)。特に、現在のメイン楽器、田邊雅啓2004年作ロマニリョスモデル(写真右)はベストコンディションで、深くたっぷりした低音に、すっきりとした高音が反応よくのり、スペインの伝統的作風をますます感じさせてくれる。


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実は最近、ギターの名器をまとめて弾く機会を得たので、忘れないうちに印象を記しておこう。都内のクラシックギター専門店で以下のギターをじっくり試奏した。あれこれ書いているが、いずれもよいギターで試奏も気持ちよく、あっという間に時間が過ぎていった。以下順不同で…


■ ハウザー3世・ブリームモデル 1998年作 

ジュリアン・ブリームが一時期使っていたハウザー1世作のやや小型のモデルをベースとしたもの。弦長645mmでボディーもやや小さいめ。テンションも低い。ハウザー2世・3世の通常のモデルと比べると少し緊張を解いたような鳴り方で、弾いている側にはさほど強いインパクトないのだが、数メートル離れて聴いていると十分太い音が飛んでくる。


■ ハウザー3世 2008年作

ハウザー2世が没し3世の時代になってから、あまりいい評判はない。代替わりの常として仕方ないことかもしれないが、一方で3世のギターは少々数量が増えすぎという感は否めない。特に日本において一つの楽器店に20本ものハウザーが並ぶ様は、人気が高いとはいえ少々異常かもしれない。2008年作のこのハウザーは、そうした評判を払拭かのような実にいい楽器だった。素人なりにぼくがハウザーに関して抱いているイメージがそのまま音になって出てきた。低音は深くたっぷり響くが、スペインの伝統的楽器と比べずっと絞まった鳴り方だ。高音は手元ではやや線が細いと感じるものの、店主に弾いてもらい少し離れたところで聴くと、太く甘さもある音がビュンビュンと飛んでくる。とかく分離が悪く濁りがちになるハイポジションの和音もきれいに響く。楽器店の宣伝文句のようになってしまうが、申し分のない名器ハウザーといった印象だ。


■ ハウザー3世 2007年作

上記の2008年作ハウザー3世とは別の店で弾いたので正確な比較は難しいのだが、製作時期が重なっているにもかかわらず印象はかなり違った。この2007年作のものはガチガチといっては言い過ぎかもしれないが、低音も高音もあいまいなところがない。6弦ローポジションの低音も深くたっぷりというよりは、強く鋭く響き、高音もしかりだ。表板にはいわゆるベアクローと称する斑がたくさんあって、いかにも腰の有りそうな材料にみえる。マダガスカルローズと思われる横裏板はかなり色目が濃く、ボディー全体もずっしりとした重量感がある。ハウザー2世の一時期を思わせる楽器だった。


■ エドガー・メンヒ1世 1969年作

以前から一度弾きたいと思っていたメンヒのギター。メンヒはドイツ人だが、ギター製作にあたってはスペインの名工;バルベロ1世の教えを受けた。もっとカッチリした楽器かと思っていたが、重量は軽く、低音はどっしりと響き、その上に反応のより高音がのるという、スペインの伝統的名器の雰囲気で驚いた。スケール感も大きい。表板はかなりピッチの広い木目のスプルース、横裏板はインドローズ、糸巻きはライシェルが使われていた。いい楽器だった。


■ コルヤ・パンヒューゼン 1981年

メンヒの姪にあたるパンヒューゼン。メンヒと同じ工房で同じ設計で製作をしていた。といっても上記1969年作のメンヒ1世とは音の印象は随分異なる。低音・高音のバランスは良好だが強い個性はなく、第一印象はやや薄い。こじんまりしていると言ったら、ややネガティブな印象を与えてしまうだろうか。古典的なすっきりとした味わい。長く弾き続けるにはこのくらいの個性の方がいいという向きも多いかもしれない。表板はスプルース、横裏板はインドローズ、ラッカー仕上げの塗装には全面ウェザークラックが入っているが、30年を経た証しとしていい雰囲気だった。


■ ヘスス・ベレサール・ガルシア 1970年作

ベレサール・ガルシアは60年代後半にエルナンデス・イ・アグアド工房にフラメンコギター弾きとして出入りするようになり、やがて製作に転じ、エルナンデスの娘婿になった。70年代には体調の衰えたアグアドをサポートしてエルナンデス・イ・アグアドブランドのギター製作にあたった。同ブランドの後継者となるはずであったが、彼自身もハカランダの木屑による呼吸器障害からか体調優れず、わずか83本のギターを残したのみで世を去った。弾いた1970年作の楽器はNo.104とあり、彼の製作した4番目のギターとのこと。内部構造に彼オリジナルの工夫が施されているようだが、深くゆったりなる低音、よく通る高音など、スペインの伝統的楽器の最後を飾ったアグアドそのものといってよい楽器だ。弦長660mmだが、張りの強さは感じず、どんな曲も実に気持ちよく弾ける。今回見た中ではもっとも惹かれたギターだ。


■ サントス・エルナンデス1921年作、ドミンゴ・エステソ1931年作、ハウザー1世1929年作

別格扱いのこれら3本の名器。いずれも20世紀初頭のスパニッシュギター伝統息づく楽器で、かつ年月を経た楽器だけが持つ独自の響きが素晴らしい。どの楽器も軽く作られ、たっぷりした低音と反応の速い高音とを持ち、楽器全体からふわっと音が広がる。こうしたやや古い伝統的な楽器とは対照的に、現代の楽器は音の指向性を高め、音を直進させて遠達性を上げる工夫がなされてきた。反面、楽器全体から音が広がる独特の雰囲気はない。大きなホールではなく、石や木で被われた響きにいい空間であれば、こうした伝統的な響きを持つ楽器の良さが発揮されるのだろう。


今回上記の他、エルナンデス・イ・アグアド、フレタ1世、バルベロ・イーホ、マヌエル・ベラスケス、アントニオ・マリン、サントス・バジョン、ホセ・ヤコピなどの楽器を弾く機会を得た。印象が薄れないうちに、これらの楽器についても近々インプレッションを残しておこうと思う。『分相応』というのが我が座右の銘だが、腕前をかえりみず、こんなギターを1本手元に置いて生涯の友としたいところだ。しかし、いずれ劣らぬ貴重な名器ゆえ、そう簡単には手が出ない。嗚呼…

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マエストロ・与太

Author:マエストロ・与太
ピークを過ぎた中年サラリーマン。真空管アンプで聴く針音混じりの古いアナログ盤、丁寧に淹れた深煎り珈琲、そして自然の恵みの木を材料に、匠の手で作られたギターの暖かい音。以上『お疲れ様三点セット』で仕事の疲れを癒す今日この頃です。

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