英豪系ギター名器の弾き比べ


昨年11月から年末にかけ、少し珍しいものを含めた英国系ギター3本をじっくり自宅で弾く機会を得た。せっかくなのでこのブログに記録として残しておきたい。紹介するのは以下の3本。

 a. サイモン・マーティー 1999年作
 b. ニコラス・スコット 2004年作
 c. デイヴィッド・ホワイトマン 2009年作

<左からマーティー、スコット、ホワイトマン>       <左からスコット、ホワイトマン、マーティー>
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サイモン・マーティー 1999年作■
プロギタリストの間でも人気の高いオーストラリアの製作家;サイモン・マーティーのギター。グレッグ・スモールマンなどと同じく裏板はアーチバック形状、最先端の研究成果が反映された現代風のギターだ。手にするとずっしりと重く、秤にのせて量ると2.5kgあった。オーソドクスな設計のギターよりも1kgほど重いことになる。

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『爆音マーティー』と異名を取るとか。ともかくよく鳴る。一般のよく鳴るギターの3割増しという感じだろうか。低音は極端にいうとすべてがウルフトーンのように響く。高音は音量もさることながらエネルギーに満ちた鳴り方で強く抜けてくる音。この楽器の真価を発揮させるにはかなりしっかりしたタッチが必要だ。タッチの強さにどこまでも応えるダイナミックレンジの広い音ともいえる。一方で音色感はいささか単調というか、すべての音が大きな声の母音で鳴っているような錯覚におちいる。また右手のタッチで得られたエネルギーを音の立ち上がりの音量に使っている鳴り方で、その分サステインはやや短めだ。総じて弾き手が微妙なニュアンスを感じ、音色を味わいながら弾くというよりは、一定以上の音量でフォルテとピアノを明確に弾き分ける、すなわちプロフェッショナルのステージ実戦向けの楽器だと感じた。


ニコラス・スコット 2004年作■
ニコラス・スコットは下記のデイヴィッド・ホワイトマン同様イギリスの製作家。スモールマンのギターに触発され、そのコピーを作るようになったと彼のHPに書かれていた。日本ではまだ見たことがない。こちらはサイモン・マーティー以上にハイテク武装の楽器だ。外見こそアームレスト以外は特に変わったところはなく、表板には杉が、横裏板にはジリコテ(シャム柿)が使われている。重量はずっしりという感覚を超え、片手で持ち上げるのがしんどいほどで、秤にのせるとなんと3.3kgあった。普通のギター2本分以上だ。この手のハイテクギターの常として表板はワッフルバー(格子型)の力木が施されている。更にこのニコラス・スコットのギターでは裏板にもワッフルバーが取り付けられ、加えてその上にガラス素材の板が張られている。徹底した高剛性志向の作り方だ。実際、弾きながら裏板に触れてもほとんど振動が伝わってこない。エンクロージャの剛性を高めて解像度を上げて人気のあったかつての三菱ダイヤトーンスピーカーを思い出した。しっかりした箱に入れ、スピーカーの振動板だけを鳴らすという思想は現代のハイテクギターに通じる。

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マーティーと同系列と見られる現代風のギターだが音の印象は相当異なる。実は弾く前は3キロを超えるその重量かつ凝った構造からサイモン・マーティー以上の爆音を予想していた。しかし実際の音は、音量に関しては控えめといえるほどで一般のギターとさほど変わらなかった。一方で低音から高音までどの音も均一に鳴ることに驚いた。低音も高音もフルフトーンがほとんど見当たらない。マーティーの低音のように全域でウルフトーンに近い鳴り方でで音量感を確保しているとは随分異なる。音量感が控えめの一方で、すべての音のサステインが極めて長い。右手タッチで得られるエネルギーを、マーティーのギターは音の立ち上がりの音量に、そしてこのスコットギター立ち上がりのあとのサステインに当てているように感じる。ハイテク重装備にしては音量は控えめながら、音の均一性とサステインに優れたギターというのがこのスコット・ギターの印象だ。


デイヴィッド・ホワイトマン 2009年作■
デイヴィッド・ホワイトマンはロンドン在住の製作家。マーティーやスコットらの昨今流行りの作風とは異なり、オーソドクスな設計を採っている。数年前に都内の楽器店で一度見たことがあったが、日本に入ってきている数はごく少ない様子だ。今回弾いたのは1940年作のハウザー1世を徹底的に研究した成果を反映させたというモデル。外形やデザイン、構造体だけでなく、これまで知られていなかったごく微細な工作部位にまで及ぶ新たな発見成果を取り入れているとのことだ。今回弾いた楽器が彼のHPのギャラリーに載っている(シリアルNo.と表板の斑の入り具合でそれと分かる)。表板は松、横裏板は上質のハカランダ、パーフリングにはメープルが巻かれていて品格高いデザインだ。

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音はとてもよかった。ハウザー1世モデルらしく、十分なボリュームでふっくらと鳴る低音に分離がよくかつ太めの高音がのる。やや小ぶりで重量も軽く弾きやすい。ハウザーというとやや硬質な音というイメージもあるが、1世に限っては古いスパニッシュに範を取った伝統を感じさせる音であることが、ホワイトマンのコピーからも分かる。ウルフトーンはF#付近にあるが突出してはおらず、この周辺の音全体がたっぷりと鳴る。低音に関してはぼくの持っている田邊雅啓作のロマニリョスモデルと極めて近い鳴り方だ。田邊ロマニは高音がすっきりしているが、このホワイトマンのハウザーモデルは高音が太く逞しい。音量もオーソドクスな設計のギターとしては十分で、ピラミッド型のエネルギーバランスと相まって、何を弾いてもゆったりと気持ちよく弾ける素晴らしい楽器だった。


こうしてスペインでもなくドイツでもなく、イギリスとオーストラリア(広義ではイギリス圏か)の楽器を弾いてみて、ラテンでもゲルマンでないアングロ・サクソン特有の何かがあるかと思いめぐらせてみたが、すぐには思い付かない。ただいずれの楽器も優れたクラフトマンシップとしっかりした基本方針とをもって丁寧かつ緻密に作られた楽器という印象はある。さてこの3本の内どれか1本をと言われたら…ちょっとだけ迷って、デイヴィッド・ホワイトマンのハウザーモデルを選ぼうか。


さて退屈な報告の口直しに、サイモン・マーティーのギターを鳴らし切っているイリナ・クリコヴァの動画を貼っていこう。テデスコのソナタ第4楽章とバッハのチェロ組曲第1番プレリュードだ。





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