特集;群馬交響楽団を聴く <5> 高関健指揮 ブラームス 交響曲第1番


ご当地自慢もほどほどにしておかんとなあと思いつつ、ことのついでにもう少し。群馬交響楽団を聴くシリーズその<5>であります。これまでの4回では同団の大きなターニングポイントとなった80年代初めの盤を取り上げた。実際それ以前は公式な録音やレコードの販売があったのかどうかも知らないし、手元にも1974年に録音されたベートーヴェンの第9があるが、いわば私家版扱いのもので一般流通はしていない。これは群響に限ったことではなく、日本の地方オケが録音セッションをすること自体まれだった。その意味でも1980年からの一連の録音は群響のみならず日本のオーケストラ全体に与えたインパクトも相応にあっただろう。またカメラータトウキョウというような、クラシック界のインディーズレーベルが個性ある企画と優れた感性に基づく録音セッションで、この世界に出てきたことも注目に価する出来事だった。
そうした80年代初頭のあと、群響は一気に飛躍したかというとそうではなかった。オーケストラに付き物の財政難やそれに関連する労働問題などもあって、落ち着かない年月が続くことになる。しかし団員の努力や根強いファンの力もあって定期演奏会のほか、県内学校施設への移動音楽教室などを継続。やがて財政面では群馬県の補助を受ける体制が整う。そして音楽面では1993年、その後15年間に渡って音楽監督を務め、真の黄金期を確立した高関健を迎えることになった。


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高関氏を迎えた群響は、音楽そのものに関する知識、オーケストラビルダーとしての力量等で抜群のセンスと手腕を持つ同氏のもと、徹底的に音を再構築。そして積年のうっぷんを晴らすかのように活動の幅を広げた。1994年「プラハの春国際音楽祭」、「ウィーン芸術週間」から同時に招待を受け、4カ国を巡る海外公演を実現。翌年1995年の創立50周年には東京及び群馬県内各地でベートーヴェン全交響曲連続演奏会を行った。きょう取り上げたCDもそうした時期の1枚だ。収録曲は以下の通り。いずれも1996~97年のライヴ録音。

 1. 夢の時(武満徹)
 2. オーケストラのための「遠景2」(細川俊夫)
 3. 交響曲第1番ハ短調op.68((ブラームス)

1997年、高関&群響はブラームスの4つの交響曲を続けて取り上げた。この盤の4番は1997年前橋市民会館でのライヴ録音だ。これを聴くと高関氏の音楽作りは実に明快で適切だ。第1楽章は原典主義の彼らしく提示部を繰り返し、その時間15分。序奏からやや速めのテンポ設定だが、音響イメージが安定していて軽さはなく、ブラームスに期待する重厚さは十分だ。アンサンブルの縦の線がピシッと合い、決め所のアインザッツが曖昧になることがない。聴いていてまことに胸のすく演奏だ。管楽器群の音程も安定しているし、ブラームスの交響曲らしい弦楽群のうねるような表現も過不足ない。ブラームスの交響曲は厚みある音響や単純でないフレーズの折り重なりなどロマン派交響曲としての側面と、一方で構成やリズムなどでは古典的要素も含み、指揮者の解釈でどちらに軸足を置くかが決まる。高関氏はこの曲を完全に古典的な観点からとらえ、テンポ設定やアインザッツの整え方を周到に組み立てている。特に第4楽章は演奏によってはかなりこってりしたロマンティシズムを前面に押し出すものがあるが、この演奏はスコアに指示はないが慣習的にテンポを落とすような箇所(例の終盤の管楽器群によるコラール等)もインテンポで通している。群響も終始緊張感を保った音で高関氏の古典的アプローチに応え、見事な演奏を展開している。

高関氏は音楽監督として群響に新しいレパートリーや難易度の高い曲も持ち込んだ。団員も世代交代の時期になり若手の優秀なプレイヤーが数多く入団した。ぼくは2000年から2006年頃の高関&群響のほとんどんの演奏会を聴いたが、古典派から後期ロマン派、近現代まで、そのいずれもが期待に違わぬ素晴らしい演奏だった。このブラームスはそうした高関&群響の黄金期を印す名演だ。


残念ながら高関&群響の適当な音源がなかった。ここでは氏が2010年日本フィルでブルックナーの8番を取り上げる際のインタヴューがあってのでそれを貼っておく。このインタヴューの中でも明らかにされいてるが、彼のTwitterではマニアックな研究ぶりがうかがえる。



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Author:マエストロ・与太
ピークを過ぎた中年サラリーマン。真空管アンプで聴く針音混じりの古いアナログ盤、丁寧に淹れた深煎り珈琲、そして自然の恵みの木を材料に、匠の手で作られたギターの暖かい音。以上『お疲れ様三点セット』で仕事の疲れを癒す今日この頃です。

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