特集;群馬交響楽団を聴く <6> 高関健指揮 ベートーヴェン交響曲全集
今週末いっぱいの休みも身辺野暮用とグータラ生活に明け暮れて後半になってしまった。ここ数年、長期の休みの度に懸案となる押入内ガラクタや音盤、楽譜、書籍類の整理整頓はまたも順延。きっと勤めが定年満了となって<サンデー毎日>状態になるまで手付かずのままなのかなあと半分諦めてもいる。 さて夏休み特集;群馬交響楽団を聴く。きょうはその第6回、そして今回で一旦終了とする。中じめのきょうは、90年代後半から2000年代半ばまで真の群響黄金期を築いた高関健指揮によるベートーヴェン全集を取り出した。


1995年、高関&群響は群馬交響楽団創立50周年特別企画として、都内浜離宮朝日ホールと群馬県内の数ヶ所とでベートーヴェン全交響曲の連続コンサートを行った。そのときのライヴ録音を集めて5枚のCDとして全集化したのがこの盤だ。 95年といえば93年に高関氏が群響音楽監督に就いて3年が経ち、氏の考え、スタイルはすでに群響に染み入り、それに応えるだけの素地も出来上がっていた時期だ。その時期にオーケストラ演奏の原点とも言えるベートーヴェンの交響曲を演奏するにあたり、高関氏はまず使用楽譜の吟味から始めた。前世紀から使われてきた楽譜や慣習的な指示を全面的に見直し、70年代以降のベートーヴェン研究の成果が反映された新ベートーヴェン全集や様々な新しい版を調べ上げ、95年時点ももっとも適切と思われる版を採用している。その結果この全集では全9曲のうち6曲が新しい楽譜で演奏された。演奏スタイルについても、スタカートの扱いやボーイングの指示に見られた19世紀以来の慣習的な奏法を見直したという。編成も演奏会場の浜離宮朝日ホールの広さや音響条件等を考慮してやや小編成とし、弦楽群は対向配置の8-8-6-5-4。万事、学究肌の高関氏らしいこだわりと周到な理論構築のなせるところだろう。世界トップのオケのシェフになってベートーヴェン全集を録音した際、使用楽譜の版について問われ、そういう細かいことはよく分からないと言ったという某世界的指揮者には、高関氏のつめの垢でも煎じて飲ませたいくらいだ。
演奏はいずれも素晴らしい。この演奏からかつて70年代までの群響を想像することは出来ないし、豊田耕児時代に飛躍的に向上した演奏能力のレベルからも一段も二段も高いところへ到達している。ピリオドスタイルではないが、慣習的なソステヌートを排除しフレージングを明確にした結果、19世的ロマン主義の色は少なくなっていると、ライナーノーツで高関氏自身が語っている。
いまあらためて第2番ニ長調を聴いているが、やや小型の編成と対向配置、慣習的奏法を廃した演奏スタイルにより、音楽全体の見通しがよく、颯爽としたベートーヴェン演奏が展開する。第1楽章の序奏から各パートの綾なす音響に一気に引き込まれる。主部では音楽は前へ前へと推進していく力に満ちていて、小編成のハンディキャップはまったく感じない。ベートーヴェンが書いた緩徐楽章中でも最も美しいものの一つである第2楽章も各パートの分離がよく、フレーズも明快で、あっさりしているようだが、小編成ゆえにアーティキュレーションの変化がより明確だ。終楽章も速めのテンポで畳み込むようなAllegro molto。あちこちに散りばめられたベートーヴェンらしいアクセントが明快に決まり、心地いい。
全体と通してALM・コジマ録音による録音の素晴らしさも特筆に価する。浜離宮朝日ホールと群馬県内のホールとの違いをうまく調整しているようで全編統一された音と響きを保っている。やや近めの音像にうまくホールトーンをミックスしてあり、小編制オケの長所をうまく引き出した素晴らしい録音だ。そして世にベートーヴェンの交響曲全集あまたある中、この高関&群響の盤は特別な意義のあるアルバムとなった。このコンビはその後も快進撃を続け、定期演奏会ではハイドンからシェーンベルク、武満までユニークで斬新なプログラムでファンを魅了し、またマーラーの第2、7、9番の大作をライヴ録音で残している。いずれそれらについても紹介したいと思っているが、一連の群響の記事はこれで一旦終わることとする。
今回の特集の中じめにあたり、こんな動画を貼っておく。群響と閣下の邂逅。
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