悩ましくも楽しい弦の選択
2週間ほど前、手持ちのギターのうち田邊雅啓2004年作ロマニリョスモデルとデイヴィッド・ホワイトマン2009年作ハウザー1世1940年モデルの弦を張り替えた。もう半年近く前にそれぞれオーガスチンの赤ラベルと黒ラベルを張ってそのままになっていたもの。もっぱらウィークエンドギタリストで弾く頻度もそれほどでもなく、ケースにしまっておく時間の方が圧倒的に長い。従って劣化がひどいということもなく、少しボケたくらいの方が古風な音調でいいという場合もあって、久しく交換していなかった。


オーガスチンの赤・黒ラベルはどちらかといえばテンションのゆるい方だったので、今回は趣向を変えて同社のリーガル・高音弦と青・低音弦というハードテンションの組合せを張ってみた。張り替えて二日ほどして弦の状態が落ち着いたのち、あれこれ弾いてみたが何となくしっくりこない。一週間おいてもやはり同じ。楽器と弦の一体感が乏しい。タッチの強弱に対するレスポンスがリニアでなく、ある程度以上の強いタッチでないと音が立ち上がらないのだ。技術的に余裕の持てる曲、手に馴染んだ曲を弾くには右手はかなり強いタッチも可能だが、いつもそうばかりもできない。音色もやや金属的に響く。
張り替えたばかりで少々惜しい気もしたが、気持ちよく弾けなくては意味がないと思い、昨晩2本のギターとも弱めのテンションの弦に張り替えた。今回はたまたま手持ちがあったダダリオ(プロアルテ)のライトテンションを選んだ。一晩おいて落ち着いたところで今夜弾いてみるとこれが中々いい。
弱いタッチから強いタッチまで音がリニアに追従する。ハードテンションでは強いか弱いかの両端で弾き分けるにはいいが、中間ニュアンスが出し難かった。今回はそのストレスを感じない。音の伸びもよくなったようだ。もちろんタッチを強くしていくと、ハードテンションより手前で頭を打ってしまうが、通常アマチュアが楽しむ程度のタッチであれば問題はない。少し極端な例えをすると、ハードテンション弦はプラスティックの棒を指で叩いている感じがするのに対し、ローテンション弦は右手の指先に弦に馴染んで絡みついてくる。
弦の選択は中々悩ましい。弦の特性だけでなく楽器との相性も重要ファクターだ。今回の2本のギター、田邊ロマニリョスモデルとホワイトマンハウザーモデルはいずれも重量1400グラム台と昨今のモダンギターとしては軽量で、低音ウルフトーンの設定も低めでF#付近にある。つまりは50年代あたりまでのやや古いスパニッシュギターの伝統を引き継いだ楽器だ。やはりこの時期の楽器には弱めのテンションが適当なようだ。弦が持つエネルギーが小さくでも楽器全体がよく反応する。当時はまだガット弦が使われていたことを考えると当然の結果だろうし、ギターが弾かれるステージも小さくて響きが十分ある場所であれば、それでまったく過不足なかったに違いない。横・裏板にメープルやシープレスを使ったより軽い楽器なら尚更その傾向は強く、更にテンションの低い弦がマッチするだろう。
一方60年代以降(ラミレス3世以降といってもいいだろう)の1600グラム以上ある重くてガッチリした楽器では、より強いエネルギーを楽器に与える必要があることから、楽器が持つ本来のポテンシャルを発揮するにはハードテンション弦が適当だろう。そのためには相応の強く鋭いタッチが求められる。心得たプロの手によればそれが可能で、その強いエネルギーを楽器が受け止め、より大きな音量とエネルギーを持った音を、よりデッドで広いステージへも届けることができるのだろう。実際手元にある1978年製のラミレス3世はハードテンションを張ることでリニアなレスポンスと輝かしい音を引き出すことが可能だ。ラミレス3世にローテンションを張ったこともあるが、それなりに面白い音ではあるが、楽器の目的に見合った音ではなかった。 またダブルトップにワッフルバーとった現代最先端のギターでは、その多くが2,000グラムを超えるものも多く、上記のセオリーでいくとハードテンション弦が適しているように思えるが、実際には軽いタッチでの反応する設計になっているようで、必ずしもハードテンション弦が適しているともいえず、ローテンションがマッチする場合もあるようだ。そのようなタイプの楽器を持ち合わせていないでこれ以上のコメントはやめておこう。
…と、ここまでもっともらしく書いておいて、ちゃぶ台をひっくり返すようでナンだが、正直なところ弦による違いは楽器の印象同様はなはだデリケートで、弾く側のコンディションで変化する。きのうはイイ感じだったのに、きょうはまるでダメといった感さえある。コンディションに加えて心理的バイアスも加わる。ハイテンションだからローテンションだから、このメーカーだからあのメーカーだからと…。一度や二度のインプレッションで判定を確定させる自信はぼくにはない。それに少々古くなった弦の音も曲によっては味わい深い。楽器も弦も最後は弾き手が作り出す音楽次第だ。まあ、それをいったらお仕舞いだが…
ギターの弦はヴァイオリン族に比べ随分と安い。6本セットで千円前後に多くの種類があり、やや特殊なものでも三千円余。同じギターが弦の選択で随分と印象を変えるので、アクセサリー感覚で取り替えてみたくなる。次の機会に以前購入してそのままになっているアクイーラ社の<ペルラ>を試してみるつもりだ。
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