FM放送 エアチェック 吉田秀和


いまFM放送の認知度というのはどれほどのものなのだろう。かつて70年代半ばは、60年代後半からNHKが進めていたFMステレオ放送のネットワークが完成し、またカセットテープの普及もあって、FM放送の音楽番組をカセットテープに録音する「エアチェック」が全盛を極めた。週刊FM、FMfan、レコパルといったエアチェック専門雑誌が相次いで刊行され、音楽好きの金欠学生はレコードが買えない分、せっせとエアチェックに明け暮れた。当時カセットデッキとFMチューナーを揃えると5、6万円はかかったろうか。モノラルのラジカセも2万円くらいはした。カセットテープも60分のノーマルテープが300円、90分の少しグレードの高いテープは600円ほどした。学生のバイトが一日2,500円の時代だ。

ちょうどその時期1974~1977年がぼくの学生時代と重なっていて、当時録音したテープ数百本も、つい数年前まで押入れで眠っていた。いつか聴くこともあるだろうと思いつつ四半世紀が過ぎ、観念して一気に処分した。エアチェックしたものの中には、欧州の放送局からNHKに提供されていたカラヤン、ベーム、チェリビダッケ他の当時の貴重なライブ録音や、パトリス・シェローの演出で話題になった1976年バイロイトのライブなどもあった。がしかし、オリジナルのレコード盤が30年たった今でも新鮮な音でぼくを楽しませてくれるの対し、カセットの山はそれを残そうという気持ちにならなかった。廃棄処分した自分の判断ではあるが、やはり結局はコピーなのだ。そういう結論に至った。思えばテープを買ってエアチェックなどせず、その数分の1でいいからレコードを買っておくべきだったと後悔している。


白水社 吉田秀和全集


最近もFMはよく聴く。クラシックの番組では、毎晩夜7時半からの「ベストオブクラシック」が内外のライブ録音を中心に、ひと晩のコンサートをそのまま楽しめる。早く帰宅して夕食を済ませ、7時半にスピーカーの前に陣取りたいのだが、中々そうも出来ず、帰宅の車中で聴くことが多い。他には土曜の夜9時からの「名曲のたのしみ」。この秋で97歳になった音楽評論家吉田秀和の以前と変わらない声が楽しみだ。写真の本はその吉田秀和の全集。学生時代に買い集めた(何故か欠番があるなあ)。吉田秀和とこの「名曲のたのしみ」についは、ここに的を得た説明がある。まさにこの説明の通りの1時間番組だ。

他には土曜の朝、ピーター・バラカン司会の「ウィークエンドサンシャイン」と、それに続くゴンチチ司会の「世界の快適音楽セレクション」もよく聴く。「ウィークエンド…」はポップス、ジャズ、オールデイスからアフリカや中南米の曲まで、広くワールドミュージック全般の良質なコレクションが楽しめる。「世界の快適…」はクラシック、ポップスから現代音楽、歌謡曲まで、いかにもコアな切り口でノンジャンルの音楽を聴かせてくれる。

いずれもう少し歳をとったら、レコードもほんの少数を残して処分し、音楽はFMだけにし、その時々に提供されるものを聴く楽しみを味わおうかと考えている。100枚のレコード、100冊の本、100枚の楽譜、1本のギター、シンプルなオーディオセット、小さな机、それ以外に何もないというのがぼくの理想の空間だ。今はまだ俗な欲望とガラクタがあふれていて、理想にはほど遠い。
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マエストロ・与太

Author:マエストロ・与太
ピークを過ぎた中年サラリーマン。真空管アンプで聴く針音混じりの古いアナログ盤、丁寧に淹れた深煎り珈琲、そして自然の恵みの木を材料に、匠の手で作られたギターの暖かい音。以上『お疲れ様三点セット』で仕事の疲れを癒す今日この頃です。

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