ホセ・マリンのギター


先日の記事で、最近試奏した楽器について書いたが、その後そのうちの1台を送ってもらい現在自宅にて鋭意試奏中だ。一般の<何でもおいてある>楽器店や大手チェーン店と違い、クラシックギター専門店の敷居は低いとはいえない。これはギターばかりでなくヴァイオリン属など他の楽器でも同様だ。大体は大都市にあり、雑居ビルの階段を上がっていった一番奥やマンションの一室も珍しくない。そういう場所にあるから敷居が高いのか、敷居を高く、つまりは一般の流れ客を相手にしないからそういう場所にあるのか、まあその両方だろう。そういう店であっても、一、二度買い物をし、客が信用のおける相手で、なおかつ(ここが重要)楽器の扱い方を心得ていると判断すると、かなりの値段の楽器も自宅へ送ってくれる。個人の製作家でも試奏用の楽器を送ってくれる方もいるし、よかったらそのまま引き取って下さいと、ケースに現金書留の封筒を同梱していきたベテラン製作家もいた。楽器店との付き合い方に関しては、いつか書きたいと思う。


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さて、届いたのはスペイン・グラナダの製作家:ホセ・マリン2011年作のもの。店で弾いたときの印象そのままに、明るくカラッとした音でよく鳴っている。あまりに明るく鳴るので、少し音に重量感と太さを加えてみようと、弦をオーガスチンのリーガル(高音)と赤(低音)に替えて様子をみている。弦長650mm。ボディーサイズは標準かややコンパクト。重量を計ると約1500g。弦の張りも柔らかく感じる。極端ではないが、軽く柔らかく作られたギターだ。表板はスプルース、横裏は中南米ローズウッド。糸巻きはルブナー。塗装はセラック。工作精度もスペイン製ギターによくあるカジュアルさはなく、精緻に作られている。前オーナーは初心者であったとのことで、弦交換に伴う駒周辺のキズと表板の弾きキズが散見されるが、美品中古といってよい。
ギターの音色の印象に大きく影響する低音ウルフの設定はG#。突出して響く感じはなく、腰高でもドッシリ型でもなく中庸だが、6弦5フレット以下のボリューム感は十分ある。中高音は音の立ち上がりが速く、サステインも自然でよくのびている。自宅の部屋で弾いて自分で聴いているという状況下では、全体の音量感はぼくの手元にある楽器の中でも一、二を争う。総じて欠点らしい欠点が見当たらない。あえて言うなら、選ばれた名器が持つ音色の奥行きの深さ、楽器全体から放たれる風格といったものに欠けるだろうか。すぐに下種な例えをしてしまうが、おきゃんな少女時代を終えて、少し色香を漂わせ始めた若やいだ娘という印象だ。

昔よく日本のギターの音は暗く、スペインのそれは明るいと単純な言われ方をされた。ぼく自身も音色についての感度が今ほどなかった昔は、そんなものかなあ位に思っていたが、このマリンのギターを弾くと、かつてのそうした言われ方が現在も依然としてあると感じる。もっともマリン一族やアントニオ・ラジャ一族などに代表されるグラナダの楽器は、同じスペイン製のギターの中でも取り分けその傾向が強く、ラミレス系譜のマドリッド系のギターとはかなり性格が異なる。かつてサントス・エルナンデスやマヌエル・ラミレスらによって隆盛を誇ったマドリッド派も、60年代中庸以降のラミレス3世の影響もあってか、世代交代ごとに作風が変ったというのがぼくの認識だ。アルカンヘルやバルベロ・イーホなどの近作も弾いたことがあるが、かつてのスパニッシュな味わいが感じられず、すっかりモダンな音作りになっている。むしろグラナダ系の方に古きスパニッシュの雰囲気を感じる。マリンの楽器はモダンでよく鳴る楽器でありながら、そうした古いスペインの楽器をほうふつとさせる気配を持っていて、中々好ましい。さて、この初々しい色香にオジサンが参ってしまうのかどうか。いずれ後日談を。


スペイン、英国、フランスの楽器から代表格をそれぞれ数本を取り上げ比較し、その特徴についてコメントしている。マリン(叔父のアントニオ・マリン)も選ばれ、グラナダ系楽器としての特徴を説明している(2分10秒過ぎから)。
西:アントニオマリン・モンテロ、パコ・サンチャゴ・マリン他
英国:ゲリー・サウスエル、サイモン・アンブリッジ他
仏:フレドリッシュ、ドミニク・フィールド他



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Author:マエストロ・与太
ピークを過ぎた中年サラリーマン。真空管アンプで聴く針音混じりの古いアナログ盤、丁寧に淹れた深煎り珈琲、そして自然の恵みの木を材料に、匠の手で作られたギターの暖かい音。以上『お疲れ様三点セット』で仕事の疲れを癒す今日この頃です。

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