ギターの類型


4月も終盤。今月の業務予定も何とか消化して、きょうは少し早く帰宅した。ホッとひと息つく夜、平日には珍しくギターを取り出してひとしきり練習した。


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今夜は一昨年入手した、ロンドンの製作家デイビッド・ホワイトマンのハウザー1世モデルを取り出す。久しぶりの音出しで、当初冴えない音だったが、20分ほどスケール練習をしている間に、目を覚ましたようにいい響きになってきた。
この楽器はハウザー1世モデルを標榜するだけあって、60年代以降の2世や現在の3世ハウザーと異なる。端的に言えば<軽く柔らかく>作られていて、セゴヴィアが絶賛した30年代後半から40年代の音作りに従っている。1400グラム台のボディーはF~F#の低めのウルフトーンに設定されていて、その上に木質系の反応のいい高音がのる。ハウザー1世が範にした、サントスやマヌエル・ラミレスなどの古いスパニッシュの味わいだ。

極端に言い切ってしまうと、モダンギターは二つの大きな系譜に大別されるだろうか。一つは軽く柔らかいギター、もう一つは重く硬いギター。以下はぼくがある程度じっくりと弾いて音を確認した楽器から持つイメージ。いささか乱暴で、なかば強制分類であるとお断りしておく。

<軽く柔らかいギター>
1300~1500グラム。低音ウルフトーン=E~F#。ふっくらたっぷりした柔らかい低音と木質系の高音。軽く立ち上がる音。張力弱め。やや短い余韻。低音=ボンッ、ドーン。高音=ポーン。調和し拡散する音。トーレス。サントス。マヌエル・ラミレス。ドミンゴ・エステソ。ハウザー1世。アグアド。サイモン・アンブリッジ、ケビン・アラム。ロマニリョス。フリッツ・オベール。ゲルハルト・オルディゲス。田邊雅啓、佐久間悟。
<重く硬いギター>
1500~1800グラム。低音ウルフトーン=G~A。エネルギーに満ちた力強い低音とやや金属的な高音。張力強め。長い余韻。低音=ビーン、ガーン。高音=ピーン、ツーン。分離し直進する音。ラミレス3世。ベルナベ。マリア・テサーノス(他多くのマドリッド系)。ハウザー3世。ポール・フィッシャー。河野・桜井。今井勇一。松村雅亘。多くの量産ギター。

もちろんそれぞれの分類とその間には多くのバリエーションがある。しかしここ10年ほど自分の楽器、知人の楽器など仔細に検分・試奏した結果、色分けが可能だと分かってきたし、初めて弾いた楽器の音の良し悪しと好みをすぐに識別できるようになった。そして二つの類型の間に位置する楽器はどちらかというと強い個性はない中庸の性格を持つだろうか。
これまでのぼくの少ない経験ではあるが、コンサートプロでない限り、音色の美しさや響きの調和などから言うと<軽く柔らかいギター>を好ましいと感じている。広くデッドな空間でのコンサートで音を飛ばさなくてはならない、他の楽器との合せ物で強いエネルギーが必要だというケースでは<重く硬いギター>が有利なケースもある。実際、プロでも二つの系譜を使い分けている人も多いようだ。

…とまあ、そんなことを考えながら今夜は<軽く柔らかいギター>に属する、デイビッド・ホワイトマンのハウザー1世モデルの美しい音色を楽しみながら、近々予定しているチェロとの合わせ練習のために、シューベルトのアルペジョーネソナタを少しさらった。相方のチェロ女子いわく、ピアノ伴奏に比べ、ギターとのデュオは二つの楽器の距離感が近く、一体となって響きを作っている感じがする。一方ピアノは、あくまで伴奏者として少し距離があって、チェロの方も対抗して「頑張る」イメージになるとのことだった。余裕をもって音色を楽しみながらチェロと合せられるよう、練習に励むとしたしませう。


いくつかのギターの音を。あれこれ書いておきながら、ちゃぶ台をひっくり返すようでナンだか、こうして録音すると上記の印象はほとんど分からなくなる。

海外でも人気のブランド:桜井ギター。バリオス:最後のトレモロ。


1971年作のフレドリッシュ。完全にコンサート用のギター。


トビアス・ブラウンは現代の製作家。何度か弾いたことがあるが、ロマニリョスに教えを受けたこともあって古いスパニッシュの音作りだ。



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おひさしぶりです…

最近のメイン楽器は
軽い楽器です!
極限まで…壊れる直前まで薄くした表面板
力木とドーミングで支えるテンション
裏・横はシープレス(またはメープル)
トーレスの去ったセビリアのハビエル・エルベスです!

3月で定年し、週3日(実質2日)働く毎日です…

Re: おひさしぶりです…

Mazaさん、こんばんは。お元気?
モダンギターの黎明期には、19世紀から続く手法の上に立って、音と物理的強度の接点を探ったのでしょうね。その後、「誰が作っても一定の品質でたくさん作れる」という近代工業生産的な視点が持ち込まれたと…。
古いスパニッシュはいいですよね。あれこれ物色継続中です。

No title

アマチュアにも人気の
星野さんの楽器はどちらに分類されると思いますか。

Re: No title

ファン114さん、はじめまして。少々古い記事を拾っていただき、ありがとうございます。
星野ギターは何度は試奏したことがあります。その記憶だけでいえば、パワフルな現代風の楽器だと思います。手元の資料では重量は1700グラムとあるのでやや重い方ですね。顕著な低音ウルフなどはないものの、表板サイズが大き目のこともあってか、とてもボリューム感のある音で低音から高音までよく鳴っていた記憶だあります。知人がステージで弾くのの聴きましたが、他の楽器に比べ明らかに客席後部まで音が通ってきていました。…とはいえ、もう数年前の印象で、現時点で他の楽器と同時比較したわけではないので、ほどほどに解釈して下さい。
プロフィール

マエストロ・与太

Author:マエストロ・与太
ピークを過ぎた中年サラリーマン。真空管アンプで聴く針音混じりの古いアナログ盤、丁寧に淹れた深煎り珈琲、そして自然の恵みの木を材料に、匠の手で作られたギターの暖かい音。以上『お疲れ様三点セット』で仕事の疲れを癒す今日この頃です。

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