フリッチャイ&ベルリンフィル ベートーヴェン 交響曲第九番

12月10日(金)は一段と冷えて、朝7時通勤時のプリウスの温度計は3℃を示していた。冬が好きなぼくにはイイ感じ~ッの毎日だ。もちろん布団から抜け出すのは億劫になるし、寒風吹く中、外で仕事をしている人達には厳しい季節になることを思うと、昼間ほとんどの時間をぬくぬくと事務所内で過ごしているぼくなどは恐縮至極ではあるのだが。
さて師走の週末の晩、そろそろこれを聴いてもいいかなと思い、取り出したのはベートーヴェンの第九交響曲だ。手元にはベートーヴェンの交響曲全集が16種類ほどある。その他に全集ではない第九だけの盤(ファミレスのメニューのように単品とは言わないが、まあそんな感じか)が10枚以上ある。30枚近い第九の盤から今宵の1枚を選ぶのは楽しくも悩ましい問題だ。30人の美女の中から一人を選ぶことを想像してほしい。それと同等…では全然ないのだが、でもソコソコ楽しい悩みだ。そして今夜はすんなりこの盤に決まった。


フリッチャイ・ベルリンフィル ベートーヴェン第九交響曲   手元にあるベートーヴェン交響曲全集のアレコレ(他に2セット有り)


取り出したのはフェレンツ・フリッチャイ指揮ベルリンフィルハーモニーによる1957~58年録音の盤。フリッチャイは以前モーツァルトのハ短調ミサ曲の記事で記した通り、ハンガリー生まれの名指揮者だ。フリッチャイとベルリンフィルとのベートーヴェンは、3番・5番・7番・9番がステレオ録音されている。もしかしたら全曲録音を前提にセッションが進んでいたのかもしれない。残念なことにフリッチャイが病魔に冒され、それはかなわなかったが、ベートーヴェンの代表作が良好な音質で残っただけでよしとしよう。ちょうどこの頃はベルリンフィルのシェフにカラヤンが決まって間もない時期。以降カラヤンとベルリンフィルによる膨大な録音セッションが始まることになる。

フリッチャイとベルリンフィルの一連のベートーヴェン録音からは、ベルリンフィルがまだカラヤンに飼いならされる前の、戦前からのフルトヴェングラー時代を通してつちかわれたドイツ的なベルリンフィルの音が聴ける。この録音の数年後の60年代初頭、カラヤンとベルリンフィルによる最初のベートーヴェン全集が録音されるのだが、それと聴き比べると実に興味深い。録音年月はカラヤン盤が数年あとだが、録音場所は共にベルリン・イエスキリスト教会、プロデューサーもオットー・ゲルデスで同じだ。録音技師(トーンマイスター)だけがフリッチャイ盤ではヴェルナー・ヴォルフ、カラヤン盤はギュンター・ヘルマンスと異なる。しかし、その演奏・音響は随分と違っていて、このフリッチャイ盤の方が明らかに音が硬質で引き締まっている。第1楽章などはフリッチャイ盤では極めて整ったアンサンブルと筋肉質の音色で、聴いていると正にこちらの身も引き締まる感がある。一方カラヤン盤は、音響がやや肥大していてグラマラスだ。音楽の運びも前のめりで、アンサンブルのタイミングも前のめり、いささか落ち着きがない。それをもって現代風な、ということになるのだろうが、どう聴いてもベートーヴェン第9の第1楽章には似つかわしくない。

フリッチャイは終止落ち着いた曲の運びで、これでオケが貧弱だと単に迫力のない地味なだけの演奏になるところだが、そこはベルリンフィルだ。控えめな表現で落ち着いたテンポながら緊張感に満ちた音楽を展開する。第3楽章のアダージョ・モルト・エ・カンタービレは、このコンビの特質がよく出ている。各パートの音の分離が明確で、変奏曲ごとに繰り出される各パートの組ひものような絡み合いが実によく表現されている。木管や金管の音も落ち着いていて、ややほのぐらい弦楽器群の音色と共に、この第3楽章の美しさを引き立てている。第4楽章でバリトンパートを歌うのは、ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウだ。意外なことにフィッシャー=ディースカウが第九を歌っているのは、このフリッチャイ・ベルリンフィル盤が唯一ということだ。ぼくとしては、第九はバリトンではなく、太い声のバスかバスバリトンに歌ってほしいところなのだが。
フリッチャイはこの第4楽章に限って、やや速めのテンポを取っている。コアなクラシックファンの中には、第九はこの4楽章で価値を下げているという人もいるのだが、こうして速めのテンポと取ることで、例えばテノールがマーチ風の伴奏にのって歌ったあとの管弦楽の掛け合い部分などは素晴らしく緊張感あふれる展開となっている。そして最後の最後、コーダでの一気呵成のアチェルランドで曲を閉じている。

フリッチャイは本当に素晴らしい指揮者だった。一連のベートーヴェン以外にも、同じベルリンフィルとの新世界やチャイコフスキーの悲愴など名演が残っている。いずれこのブログでも取り上げよう。
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マエストロ・与太

Author:マエストロ・与太
ピークを過ぎた中年サラリーマン。真空管アンプで聴く針音混じりの古いアナログ盤、丁寧に淹れた深煎り珈琲、そして自然の恵みの木を材料に、匠の手で作られたギターの暖かい音。以上『お疲れ様三点セット』で仕事の疲れを癒す今日この頃です。

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