ヴェンゲ一口フ&ギトリス@横浜


きのう29日の晩、予定していたコンサートを楽しんできた。「ヴェンゲ一口フと若き演奏家たち」と称されたステージ。親日家でもあるヴェンゲ一口フのもと、次の世代を担うであろう日本の若い演奏家たちが集い、そしてそこにイヴリー・ギトリスがジョイントするというもの。横浜みなとみないに出向くのはだいぶ以前にちょっとしたセミナーで何度か訪れて以来だ。東急線の乗入れ含め周辺環境もすっかり整い、美しい都市空間になっている。大ホールは2000名ほど入るシューボックス型で、昨晩はそのプロムナード席に座った。


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ヴェンゲ一口フもギトリスもビックネームに違いないが、当夜の主役は十数名の若き演奏家たちだった。その十数名が弦楽オケを編成し、ヴェンゲ一口フやギトリス、あるいはオケの中のメンバーが代わる代わるソロに立った。メンバーは最近の日本音楽コンクール、全日本学生音楽コンクールでの1、2位入賞者がほとんどだ。
バッハのBWV1043で開演。ヴェンゲ一口フと藝大2年生で当夜のコンマスも務めた小林壱成がソロをとる。5+4+2+3+2とチェロ・コンパスをやや厚くした編成。大ホールでの小編成弦楽オケという条件で、響きのダイナミクスを確保するための配慮だろうか。柔らかくかつすっきりとした弦楽オケの音がホールに響く。プログラムを見て分かる通り、技巧的な独奏曲をステージに上げる実力を持った面々が合奏体として音を出す。軽く素早い弓さばき、不要なアクセントなしでピタリと合わせるアインザッツ。小林壱成のソロは出だしこそ少し緊張もあったようだったが、すぐに持ち直し、ヴェンゲ一口フとの掛け合いもアイコンタクトしながらこの曲の素晴らしさを引き出していた。ヴェンゲ一口フはさすがの美音で、曲想に合わせて軽い引き弓ながらも、しっかりと粘りのある音で歌っていた。バッハを堪能したあとは、ヴィターリとラヴェルの弦楽合奏曲を挟んで、サラサーテの華やかで技巧的は定番曲が並ぶ。ツィゴイネルワイゼンを弾いた水越菜生は、まだあどけなさが残る中学2年生で、第66回全日本学生音楽コンクールの小学生部門優勝者。時代が下ったこともあってぐっとボリュームを増し、濃い口の音色となったオケをバックに堂々とした弾きぶりだ。前半の歌い口もたっぷりとして不足なく、急速な後半もまったく危なげない。カルメン幻想曲を弾いた東京音大2年の周防亮介。第81回日本音楽コンクール第2位の実力者らしく、出だしからG線のエネルギーに満ちた響きがホールに響き渡る。当日のプログラムに挟まれたチラシに、近くシベリウスの協奏曲を弾く予定が印されていたが、きっと素晴らしい演奏になるだろう。いくつかの国際コンクールで上位入賞し、すでにソリストとしてのキャリアを積んでいる田中晶子は休憩をはさんで2曲を披露。サラサーテのナヴァラではヴェンゲ一口フと技巧的なユニゾンをピタリと合わせて大喝采を受けていた。

後半はチェロとヴァイオリンのデュオで、カッチーニやオペラ座の怪人ファンタジーとバラエティーに富んだ曲が続く。そしてイヴリー・ギトリスの登場。90歳を超えた今も事あるごとにステージに上がるギトリス。先の大震災後の活動はしばしば報道された。ステージに登場したときからどこかユーモラスなオーラを放つギトリス。椅子に腰かけるなり、客席が暗いとみなさんの顔が見えませんねえ、明るくしらたいいのに…と笑いを誘う。自在で闊達な弾きぶり。当夜はクライスラーを2曲。軽く酒脱な歌い口。指揮者なしのオケはコンマスの小林壱成がマエストロの横顔を覗き込むようにしてテンポルバートをつかみ、オケパートを引っ張っていく。それもこれも、90歳を超えてなおかつステージに上がる心意気を、当夜ホールに居合わせたみなが微笑ましく受け入れる。最後のヴィヴァルディ:4台ヴァイオリンのための協奏曲ではヴェンゲ一口フ・ギトリス・田中晶子・篠原悠那がソロに立ち、バッハが4台チェンバロ用にアレンジ(BWV1065)したこの名曲を、楽しくも緊張感ある雰囲気で弾いて終演となった。

明日を担う若く才能に満ちた演奏家たちの闊達かつ堂々として弾きぶり、現役最長老としてその存在だけでオーラを放つギトリスの自在なパフォーマンス、そしてその両世代をつなぐヴェンゲ一口フのフランクなキャラ。当初は何やらごった煮のガラ・コンサート風かと案じたが、終演後はことのほかの充実感。熱演のおかげで気付けばあっという間の3時間。海を渡るひんやりとした夜風でクールダウンしつつ、みなとみらいをあとにした。


ヴィヴァルディ:4台ヴァイオリンのための協奏曲ロ短調。1983年の映像。アイザック・スターン、イダ・ヘンデル、ギトリス、シュロモ・ミンツ。メータ指揮イスラエルフィル。



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Author:マエストロ・与太
ピークを過ぎた中年サラリーマン。真空管アンプで聴く針音混じりの古いアナログ盤、丁寧に淹れた深煎り珈琲、そして自然の恵みの木を材料に、匠の手で作られたギターの暖かい音。以上『お疲れ様三点セット』で仕事の疲れを癒す今日この頃です。

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